垂直落下式サミング

パラノイドパークの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

パラノイドパーク(2007年製作の映画)
3.7
映画がはじまると、微かに聴こえる程度の小さなBGMが鳴っていて、そこから少年の静かな日常に入っていく。なかなか音が聴こえない。わずかばかりの生活音、父親と何を話しているかも定かでない。遠くから耳をすまして、この物語を見守ってみよう。そういうスタンスが望まれているようだ。こうやって小手先でこちら側を惹き付けようとしてくるのが、ガス・ヴァン・サントの嫌いなところ。
スケボーのウィールがコンクリートを転がる音、横並びの悪友たちや好きな女の子との会話、そして自分の心の声、主人公の男の子が好きなものは、いちいち音を拾うし、いちいち尺を取ってみせる。反対に、みたくないもの、ききたくないものからは距離をおいて、思い出しても傷つかないように、過去に追い付かれないように、何とかして主人公を逃がしてあげようとする。思春期に落とし前をつけられなかったタイプの人を優しく刺しにくるのが、ガス・ヴァン・サントの好きなところ。
美少年も美少女も悪友たちも、普通にそこにいる。みんなが普通。あえて中庸であること。抜きん出ないかわりに、劣りもしない。美少年も美少女も、そこらへんの人とおなじようにそこにいる。スケボーは、はじめたばかりだから上手くない。彼女はかわいいけど、ちょっとうざったい。そんな当たり前を当たり前として特別視しない。だから、心のうちに秘めた誰にも言えない罪ですらも特別ではない。
この世界観があればこそ、たまに見切れるアジア系やヒスパニック系の同級生たちも、誰もがおなじ等価さを持っているように感じて、そういう画面から伝わる純朴なフェアさが気に入った。
恋に恋するブロンド少女は、彼氏のかぶってる帽子を取って、おどけた調子でかぶってみせる。そんで、一通りおしゃべりをし終わると、また持ち主の彼氏くんの頭に返してあげるのだ。真ヒロインでなければ許されないムーブをあまりにも普通にやってしまう。さすがのプリティレックレス!
華のある演技を素朴に撮るという職人芸。アメリカ合衆国・オレゴン州はポートランドに暮らす高校生たちの日常を、こんなにも普通に綴られると、一生持ち続けていたかったアメリカンティーンエイジャーへの憧れが塞き止められてしまう。やっぱ嫌いだよ、ガス・ヴァン・サント。