ベビーパウダー山崎

夜の鼓のベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

夜の鼓(1958年製作の映画)
3.5
おそらく初めて人を殺めた三國連太郎の手が固まってしまい、剣を握る指を一本ずつ剥がしていくリアリズム。『越後つついし親不知』では屑でいい加減、下卑た間男を演じていた三國連太郎、本作では真逆の(寝取られ侍)役柄を真っ直ぐ誠実に演じていて、本当にうまくて気持ちが悪い役者だなあと改めてRespect。
身持ちが固いと思われている品行方正な女性(妻)が欲望に負けて淫らな女へと堕ちていく。あの流れは明らかにエロスとして映していて、今井正はさすがです。「俗」を容赦なく徹底して描くから好きな作家。
有馬稲子の色気ある声、あの消えそうな吐息と惑わせる眼。会話から物語が生まれ、嘘も真実も混ぜこぜに、いくつもの視点から語られる有馬稲子の過去。映画が確信に近づく度に体裁は崩れ、人間の弱さと脆さがあらわになる。変則的な構成は橋本忍、ねちっこい会話は新藤兼人が書いたと邪推する。
有馬稲子のケジメで終わらず、森雅之が慌てて逃げ出す敵討ちまで突き進むのが良い。室内(会話)劇からの動きを見せての人殺し。敵討ちが済んでも全員被害者のような、後味の悪さだけがじっとりと残る。