チーズマン

わたしを離さないでのチーズマンのレビュー・感想・評価

わたしを離さないで(2010年製作の映画)
3.7
「1952年不治とされていた病気の治療が可能となり1967年人類の平均寿命が100歳を超えた」

という説明からはじまる並行世界のイギリスの話です。


とても切なくて残酷な設定の話ですが作品のトーンとして始めから最後までとても抑制が効いてました。

なので、登場人物達(ドナー)が臓器提供という自身の役割をなぜかすんなり受け入れているという前提を観客側も「そういうものか」となんとなく共有できるようにはなっていたと思いましたます。

というか、ドナーが自分達の運命を受け入れてる状態にいかに観客側が違和感を持たせないかの工夫だけでほとんどこの映画は出来上がってるようにも感じました。
なので余計な想像をさせるようなものは画面に一切出さないし描かない、これを徹底していたのでかなり独特な世界観でしたね。

なのでクローンが作れるほど科学が発達しているのに、それ以外の光景は昭和で止まってる感じ(日本で例えたら)です。

唯一のSF的設定なガジェットも腕輪とそれを反応させるタイムカードみたいやつだけで、それもレトロ調で古臭く感じるように作ってあります。
そのタイムカードを外から帰ってきた時に皆が全く見ずに次々ピロンピロンと通していく管理慣れした仕草も、工夫のひとつですね。

臓器提供というタイムリミットがあるのが普通な若者の物語という設定に観客側に違和感を持たせないようにすることが作品にとって多分一番重要なことで、その前提の中でささやかだけど精一杯あがいてみせることが“生きるとは”みたいなテーマとも繋がって最後にグッとくるわけですから。

俺たちは部品じゃない人間だ!クローンの革命を起こそうぜ!とは絶対にならないし、なってはいけない作品ですからね。


そんな感じである種の抽象化された世界の中で確かな生身の実体として観客の目が向けられるキャリー・マリガンとアンドリュー・ガーフィールドの演技は自然で素晴らしかったです。


原作小説は読んでないですが、おそらくこの物語の設定ならばやはり小説のように文字から想像を膨らませるタイプの味わい方が合っていると思いました。
具体的に映像で設定を見せるよりも。


監督のマーク・ロマネクはコマーシャルを数多く手掛けてきただけあって、要所要所で印象に残るエモーショナルな映像を撮ってました。
面白かったのが、脚本を書いたアレックス・ガーランドが次に『エクスマキナ』の監督をするというのも妙に納得でした。
あれもミニマムなSFで、前提作りが大事な作品でした。
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