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チャルラータの一人旅のレビュー・感想・評価

チャルラータ(1964年製作の映画)
5.0
第15回ベルリン国際映画祭監督賞。
サタジット・レイ監督作。

19世紀後半のカルカッタを舞台に、新聞社社長の妻と文学好きの青年の淡い恋を描いたドラマ。

『大地のうた』(1955)『大河のうた』(1956)『大樹のうた』(1958)で構成される「オプー三部作」で知られる古典インドを代表する名匠サタジット・レイによる人間ドラマの秀作で、オプー三部作で見られた貧困・苦難尽くしの物語からは一転、上流階級に属する社長夫人を主人公に置いています。

舞台は19世紀後半のカルカッタ(現コルカタ)。新聞社社長を夫に持ち豪勢な邸宅で何不自由のない生活を送る妻チャルラータ。しかし、チャルラータは多忙な夫が自分の相手をしてくれないことに一人孤独を感じていた。そんな中、夫の従弟アマルがチャルラータの邸宅に住み込むことに。お互いに文学好きと知ったチャルラータとアマルは次第に心の距離を縮めていくが…という“自己表現としての文学を通じた男女の心の触れ合い”とその先にある“夫婦愛の再確認”を、当時の上流階級の暮らしぶりを覗かせる生活風景の中に描き出しています。

ひょうきん者のアマルに図らずも恋心を抱いてしまうチャルラータの繊細な心理が自然体に表現されます。相思相愛になった場合それは倫理的にアウトですから、チャルラータがアマルに直接的に愛を告白する場面はありません。その代わり、チャルラータが見せる涙や笑み、仕草や表情にはアマルに対するその時々の心情が含まれています。物語の前半はチャルラータとアマルの出会い・交流が中心に描かれますが、ある事件をきっかけにチャルラータと夫の関係性へと物語の焦点が転回します。なるほどアマルとの交流と慕情は結末に向けた伏線で、それが結果的にチャルラータの当初の悩み=夫との関係性へと回帰・解決を導いていく。恋と文学を通じて開花させた自己表現の力は、やがてチャルラータが夫に差し出す温もりに満ちた右手として結実するのです。後ろめたい恋の顛末で終わらせず、誰もが幸せになれる至福のラストを持ち込んでくるあたり、時代への配慮とともにサタジット・レイの限りない人間愛が感じられる秀逸な作劇です。

ちなみに本作は音楽もサタジット・レイが担当しています。ザ・インド映画と言わんばかりの独特のメロディー(楽器が謎)は既聴感がやたら激しいのです。それはそれで味なのですが…。
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