むぅ

蒲田行進曲のむぅのレビュー・感想・評価

蒲田行進曲(1982年製作の映画)
3.6
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」

お見事!と思った。
「それはどうかと思う」
そんな事を言いたくなる言動を繰り返すのに、どうしても憎めない魅力のある人に友人が夢中になっていた。振り回されるどころか、ぶん投げられてもついていく。
しかもそれがその友人だけではなく、性別、年齢問わず、結構な人数いるのだ。
魔法というよりは、麻薬のようなその魅力に私のセンサーは全く反応せず、不思議な気持ちでいた。
そんな彼が経営するバーで、アトラクションのような魅力のあるパフォーマンスに鈴なりになる人達を横目にお酒を飲んでいた。

カウンターで時々一緒になる方が、これまた強めのお酒を飲みながらボソッとそう言った。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い...?
なるほどその逆の意か。上手い。
「魅力的なお経ですもんね」
「煩悩まみれだからね」
そう小声で言い合って2人で笑った。

銀ちゃんとその人が重なった。

自分で履いたんだか、履かされたんだかは不明だが、もうその下駄は脱げない。
トップでいる事は、やっぱりちょっと孤独だ。
銀ちゃんの見栄っ張りや鼻っ柱の強さの裏の繊細さや孤独に気付いているヤスと小夏。
その3人が織りなす人情喜劇。

それぞれの愛情の深さに、こちらが溺れそうになる。
けれども一番溺れそうになっていたのは、銀ちゃんだったのかもしれない。
基本"ドタバタ"と進んでいく物語なのだが、一瞬静まり返るシーンがある。それは小夏とヤスの母のシーン。小夏を見つめるヤスの母の視線、そしてそこから目を逸らした小夏の表情で一気にこちらの体感温度を下げてくる。
でもそこで描かれているのも、また、愛情なのだから凄い。

それぞれが情熱を注いで作り上げていく映画。何かを成し遂げる時、それは一人だってチームだって大変なこと。そんな中、台詞の量やカメラに映っている時間にこだわってしまう役者たちの本音が人間らしく可愛らしかった。

私の"銀ちゃん"のバーはもうない。
けれども、そこで出会った大切な人達とは閉まって何年か経つ今でも連絡を取ったり会ったりする。
久しぶりに会うと必ず誰かが口にする。
「あの頃楽しかったよね」
それに尽きる。
私も知らないうちに"銀ちゃん"の魔法にかかっていたのかもしれない。

そんな風にこの映画を想う人もいるのだろうな、という不思議な懐かしさ。
むぅ

むぅ