紅孔雀

サラリーマン清水港の紅孔雀のレビュー・感想・評価

サラリーマン清水港(1962年製作の映画)
4.9
今回は我儘なレビュー。1962年公開というから50年以上前の喜劇映画を取り上げます。チョー懐古的ですいません。
森繁久弥が社長を演じ、加東大介、三木のり平、小林桂樹、フランキー堺等が脇を固める「社長シリーズ」の第12作目です。半世紀前の作品にも関わらず、これが実に笑わせるんですね。我が国喜劇映画界の一到達点ではないか、とさえ思いました。
当時、東宝はこの「社長シリーズ」と、ほぼ同じ俳優陣(ただし、伴淳三郎が松竹から客演で参加)による「駅前シリーズ」を2枚看板として交互に公開し、安定した人気を誇っていました。私は2番館(ロードショー後再上映する映画館)で後追いで観ていたのですが、その頃は「駅前シリーズ」の親しみやすさの方が好みでした。ところが後年、サラリーマン経験を積んでから観ると「社長シリーズ」の方が身につまされ、ダンゼン面白くなったんですね。
その社長シリーズの中でも最高傑作ではないかと思うのが、この「清水港」なんです。好色だが恐妻家の森繁社長、篤実なる加藤専務、パーッとやりたい三木工場長、時々拗ねる小林秘書課長、さらには怪しげな日本語を操る中国人フランキーと、各々が自らの得意パートを楽しげに演じています。この安定感が、観客を安心して笑わせてくれるんですね。加えて、監督・松林宗惠(しゅうえ)、脚本・笠原良三のゴールデンコンビも円熟の域で、元ネタ『次郎長三国志』を見事に換骨奪胎。森の石松(=小林桂樹)が惨殺されずにハッピーエンドで終える手際も鮮やかでした。
人生の酸いも甘いも噛み分けた俳優陣が演じるからこその“大人の笑い”がここにあります。今では到底撮り得ない奇跡のような傑作喜劇でした。
PS : なお本作は、何故か映像ソフトが絶版だったのですが、今回CSで放送されたのを機に久し振りに鑑賞。「社長シリーズ」トップ(ということは日本喜劇映画界のトップ!)の面白さを再確認しました。
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