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レッド・バロンのodyssのレビュー・感想・評価

レッド・バロン(2008年製作の映画)
4.0
【映画はこういうふうに撮るものだ】

BS録画にて鑑賞。
第一次大戦期のドイツ軍で撃墜王とされた青年の物語です。

最初に、少年期の映像が出てきます。鹿を猟銃で狙っていたところに飛行機が飛んできたため、鉄砲を放り出して飛行機を追っていく姿。少年が飛行機に対して抱く憧れと同時に、将来は戦闘機で撃墜王とされる資質、つまり銃を撃つ資質をも暗示した優れた出だしと言えるでしょう。

作品全体から受ける印象は、やはり21世紀に入って作られたものだけあって、好戦性を排し、戦争に対する懐疑や、敵軍へのフェアプレイ精神を強調するものになっています。この辺は一長一短かなとも思う。たしかに、第二次世界大戦次に比べれば第一次世界大戦のヨーロッパ戦線ではまだ騎士道精神のようなものが生きており、どこかスポーツでの対戦のような雰囲気があったことも確かでしょう。特にこの映画は地上戦ではなく、飛行機での戦闘を描いているので、それだけ悲惨さよりはフェアプレイの精神が目立ちやすいとも言える。これまた冒頭近くで、ヒーローが撃墜して亡くなった敵国軍人の葬儀に、爆弾ではなく花束を戦闘機から投げ入れるシーンがそれを象徴しています。これが地上の塹壕線だったら、こうはいかないでしょう。

しかしはやり作られた時代の雰囲気が20世紀の初頭を描いたこの映画に反映していることも否定はできない。ヒーローと恋仲になる美人看護婦が特に反戦的な言動によって作られた時代(21世紀)の精神を代弁しているかのよう。また、ヒーローの父親もきわめてリベラルで若人に理解がある。まあ、この辺は映画という大衆向けジャンルとしては仕方がないことかも知れませんね。

第一次大戦ですから、戦闘機も二葉機や三葉機などの複葉機です。でも見ていると結構高性能で、すでにメカとして十分な信頼性があったのだなと分かります。私はそうではありませんが、戦闘機マニアにはたまらない作品でしょう。

しかし、この映画の最大の長所は、映像だと思います。特に新奇をてらった映像ではないのですが、細かいカットによって、一つの場面についても様々なアングルから様々な人物や事物をていねいに映し出しており、きわめて映画チックであると同時に包容力があり説得性の高い映像が観客に提示されています。映画はこういうふうに撮るものだ、ということの見本のような作品だと思いました。
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