シンタロー

黒い河のシンタローのレビュー・感想・評価

黒い河(1956年製作の映画)
3.4
小林正樹監督×有馬稲子主演による社会派作品。戦後、進駐軍に占拠された町・厚木。汲取式の共同便所に井戸という、バラック寸前の長屋"月光荘"に、苦学生の西田が引っ越してきた。レストランのウェイトレス・静子と知り合い、2人は惹かれ合う。その頃、長屋の買い取り話が持ち上がっており、仲介する"人斬りジョー"ら愚連隊は、住人の立ち退きを画策する。西田に本を貸してもらいに行く静子は、その道中襲われる…以前から静子に惚れていたジョーは、わざと手下に襲わせ、自分がそれを助けるという芝居を打ち、静子を手籠めにしてしまう…。
オープニングはおしゃれ。激しいドラムからの松竹のロゴ、軽快なジャズサウンド、ソール・バス系のバック、有馬稲子のクレジット…カッコいい!
ところが、中身はなかなかの鬱映画。強烈な腐臭感漂う極貧長屋住人の群像劇がベースにあり、クセ強すぎガラ悪すぎなロクでもない連中が酷過ぎて、いくら生活費切り詰める為とはいえ、ここに住むのはちょっと…でも、振り返ると、自分の学生時代、京都東九条や菊浜辺りの友人宅近所に、こんな見た目の長屋は結構あった気がします。
苦しかったのが、肝心のヒロイン・静子の心理が理解し難かったこと。いくら処女を奪われたとはいえ、自分をレイプした相手…しかもとんだ荒くれ者・ジョーに"責任取って結婚して"は??なのに、やっぱり西田が好き!と、西田を巻き込んで、会おうとするリスク…真相を知るまでは、イケメンのジョーに対してワルの魅力を感じていたということなのか?そもそも西田だってどこがいいの?って感じの男だし、静子の男を見る目の無さに、なんだかなーって思ってしまいました。クライマックスの舞台が"黒い河"。好きな男はあまりにも頼りない…いっそのこと自分で決着させようとする静子…ノワール的描写は嫌いじゃないけど、後味はよろしくなかったです。
主演の有馬稲子はとても美しく、こういう清楚な女が堕ちていく様を演じさせたら右に出る者はないのでは、という感じ。堕天使が復讐の鬼と化す様には、ゾクゾクしました。悪い魅力に満ち溢れている仲代達矢。主役級の存在感で、ジョーという役自体、中身の無い薄っぺらなチンピラに過ぎないのに、そこに求心力をもたらしてるのは仲代の力量。この2人のお陰で、作品の完成度は底上げされてる感じ。渡辺文雄は完全に食われてます。出っ歯の義歯が酷い家主・山田五十鈴のお下劣糞ババアぶりと、珍妙なパン助のヤリ手婆・三好栄子が強烈なインパクト。良心的な在日のアカを好演した宮口精二には、なんとなくホッとして癒やされました。
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