Jeffrey

黒い河のJeffreyのレビュー・感想・評価

黒い河(1956年製作の映画)
3.5
「黒い河」

冒頭、貧乏長屋"月光荘"の一角。人斬りジョー、大学生の西田、一癖二癖ある住民たち、米軍、立退、強姦未遂、輸血、殺意、時計、ヒモ、女。今、ひとつ屋根に住む住民達の蠢く戦後が映される本作は‪富島健夫の同名小説を後に小林の「怪談」で倒産した"にんじんくらぶ"が企画し、小林正樹が監督した作品で、この度初DVD化され初見したが傑作だ。まず、小津安二郎の「東京暮色」の有馬 稲子と同じく小津の「彼岸花」の渡辺文雄、後の大作「人間の條件」の主役を務めた仲代達矢が主演と言うのは激アツの何者でもない…有馬と仲代は人間の條件で共演もしている。

この作品から仲代達也が小林監督の作品に出演し始める。米軍基地周辺に蠢く悪徳と悲劇にメスを入れた社会派青春映画で、米軍基地周辺の諸問題を提示している。今の今まで、米国クラテリ盤DVDでしか日本映画を観れなかったが、松竹から国内向け円盤が発売されたので、漸くと言う所だ。この作品の悪役ぶりを評価されたのか知らんが、仲代達矢は小林正樹の大作の主演を務めてる。

さて、物語は苦学生の西田は、生活費を切り詰めるために、米軍基地に程近い貧困長屋に引っ越してくる。ところが既に長屋を買い取ろうと言う話があり、仲介する人斬りジョーら愚連隊一味は長屋住人の立退きを画策する。同時にジョーは以前より目をつけていた西田の友人、静子わざと手下に襲わせ自分がそれを助けると言う芝居を演じ、その後彼女を手にして無理矢理自分の女にしてしまう。

本作は冒頭に米軍戦闘機が日本上空を飛ぶファースト・ショットから始まる。そして米兵が物をかっさらい逃げる。そして街の日本人男女を捉え、彼らはタバコを吸いダーツをし、酒を飲み戯れている様子だ。そんな中、一人のサングラスをかけた男が現れる。彼の名前はジョー。カットは変わり、大学生の西田が現れる。彼は 貧乏長屋の月光荘の大家らしきおばさんと会話をし、好きな政党はあるかと聞く。彼は特に政治に興味がないと言い、おばさんは一安心する(どうやら先日アカが入ってきたようだ)。

続いて、大家のおばさんが住んでいる人たちに家賃を払えと怒鳴りまわる。そして今度新たに入ってくる西田を住人に紹介する。そして喫茶店のようなところで冒頭に現れたジョーと大家が黒木と言う男がそのアパートを購入しようとしているとの話をする。続いて、西田が借りた部屋を雑巾がけしているシーンへと変わる。そこに同じ住人の岡田が破廉恥なポスターを持ってきて、壁に貼る。そして彼の部屋にお邪魔しコーヒーを飲む。そこへ妻の康子が酔っ払いながら帰宅する。

続いて、アパートの住人たちが一斉に集まり、自分たちで使った電気のワット数を報告し合う。そこで住人の一人が口から血を吐いて倒れる。みんなはそれを抱え込み安静にさせる。そして解散。部屋に戻った西田は住人の男が本を貸してくれと言い貸す。カットは翌日へ。日傘をさした一人の女が街を歩く描写。彼女の名前は静子。西田と一緒に歩く。そして会話をする。

続いて、夜道を歩いていた静子がジョー率いる街のごろつきチンピラたちに襲わせ、自分がそれを助けたと言う芝居を打ち始める。そして縛られて車に詰め込まれた彼女は泣き叫ぶ。そこをジョーが助ける。そして優しく振る舞うがとっさに接吻しようとし嫌がられる。そして翌日、静子が彼のいるところへやってきて、正式な結婚を申し出る。彼は冗談なのか笑いながら会話をする。

二人は街のクラブでダンスをする。そしてアパートでは輸血問題に火がつく。そして康子の西大への浮気、それを知った夫の岡田が激昂する。そして街の住民たちがそれぞれに絡み合って行く…と簡単に話すとこんな感じで、中々面白かった。




いゃ〜初見したが面白い。ひとつ屋根の下で様々な人間模様が写し出される。こういう感じの作品は案外好きで、いろいろなドラマが生み出される。女に棄てられてしまって何のために東京出てきたかと怒る男、立退に猛反対する男、嘘ばかりつく男、女口調のオカマっぽい男、夫が死にそうなのに輸血をしようとしない女など様々だ。

にしても有馬稲子が美しい…。一昔前ベルリン国際映画祭でクラシック部門で小津安二郎の「東京暮色」が公開される時の新しいポスターの有馬稲子の頬杖つく姿が可愛くて可愛くて…本作の彼女もとってもべっぴんさんだった。後に多くの大島渚のアートシアターギルドなどに出演している西田役の 渡辺文雄も二枚目だし、大学生役が凄くあっていた。

そして、仲代達也の極悪非道な悪役っぷりが最高である。それとボロアパートがショベルカーで破壊されていくシーン、ラストのあの衝撃的で悲劇的なクライマックスお見事である。
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