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わたしたちの宣戦布告のakrutmのレビュー・感想・評価

わたしたちの宣戦布告(2011年製作の映画)
4.0
小さい息子が難病に侵されていることを知った若い両親が、その事実に苦悩しながらも困難を乗り越えていく姿を描いた、ヴァレリー・ドンゼッリ監督のドラマ映画。

何と言っても、本映画が同様のテーマを扱う他の作品と大きく異なるのは、両親を演じたヴァレリー・ドンゼッリとジェレミー・エルカイムの現実世界での体験をそのまま映画化している点である。この二人は実際にパートナーとして子供をもうけ、その子供がラブドイド腫瘍という難病なのである。二人の本当の息子であるガブリエル・エルカイムも本作に出演している。それだけに、本作品は超リアルであり、当事者でないとわからない/気付かないような心情が丁寧に描かれている。病院の些細な行き違いに苛立ったり、パートナーへの怒りを他の出来事に転嫁しようとしたりする姿に、将来が見えない中での二人の苛立ちや不安がうまく表現されていると思う。

それにしても、当事者として経験したことを、当事者とは切り離し監督・俳優として客観的に見つめ直した上で、自分自身を演じ直すというのは、経験したくても経験できない貴重な経験だったであろう。そういう意味でも、とても貴重な映画だと言える。もちろん、涙を禁じ得ない感動の物語でもあるので、この種の映画が好きな人にはぜひ見てほしいおすすめ映画である。

なお、映画の最後のほうでも語られるが、二人はパートナー関係を解消するに至る。もちろん、それは関係が悪い方向に行った結果としての別離ではなく、家族としての深い絆を保ちつつであろう。実際に本映画を製作・撮影しているときには、二人はすでにパートナー関係になかったようである。それを知って少し驚いてしまったことも事実。というのは、難病の息子を抱えた両親が良好な関係を保ちつつ離婚(パートナー解消)するなんて、家父長的家族観を持ち夫婦別姓さえも認めない政治家が統治するような日本では、まず考えられないからである。そんなことをしたら、身内からも他人からも大きく批判されるであろう。本映画を見ていると、そんなことまで考えさせられてしまう。
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