荒野の狼

コクリコ坂からの荒野の狼のレビュー・感想・評価

コクリコ坂から(2011年製作の映画)
5.0
女子高校生メルが、祖母と妹の他数名と同居して家事一般をしながら、出生の秘密がある男子学生に恋をする学生生活を描く91分。色んな要素が盛られているので、見る人にとっては、好みのポイントなどは異なると思える作品。
個人的に気に入っているのは、自分の生活を犠牲にしてまで、同居人のために家事をしているメルが、恋人とうまくいかない中で、ひとり身体をまるめて泣いて見た夢のシーン。そこには、ずっと不在であるはずの母親が朝食を当たり前のようにメルのために作り、死んだはずの父が帰ってきて、メルを抱きしめる。今は、自分のそばに居なくなってしまった人たちの愛を自分の中で生かしていくメルを象徴するようなシーンだが、次の本作の名セリフとも、メッセージはかぶる:「古いものを壊すというのは 過去の記憶を捨てるというのと同じではないのか!人が死んでいった記憶をないがしろにする事と同じではないのか!」。
メルの父親は、朝鮮戦争の米軍の海上輸送(後方支援)の仕事でLST(Landing Ship Tank:戦車揚陸艦)に乗って死亡している。私は恥ずかしながら、日本人が戦後、朝鮮戦争に参加して、いわば「戦死」していたとは知らなかった。この件にかんしては、米国には資料があるが、日本での調査がいまだにすすんでいない。今日、自衛隊の後方支援などが問題になっているということもあり、この日本人が既に米軍の戦争に巻き込まれて多数死亡していた歴史的事実を伝えるという意味だけでも、この映画には意味がある。
他に優れている点は、横浜の小高い丘から見た美しい海浜風景や、東京オリンピック前年の1963年が舞台であるので、まだ戦争の爪痕の残る世相や、まだ発展途中の横浜(この作品の舞台)や東京の地下鉄の様子などは、よく描かれている。声優は豪華だが、メルの母親を風吹ジュン、祖母を竹下景子が演じているが、風吹のほうが竹下より一歳年上ということもあり、落ち着いてややハスキーな風吹が祖母を、この手の母性愛を演じさせれば最適の竹下が優しい母の声を演じたほうがよかったではないかと思われる(本作では、竹下は多少無理をしてしゃがれた声を出している感があり、竹下には、よりはまり役があるだけに、なんとも残念な配役)。
荒野の狼

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