猫脳髄

アリス・スウィート・アリスの猫脳髄のレビュー・感想・評価

3.7
アメリカン・スラッシャー映画のなかでも、もっとも「ジャッロ風」と称される異色作。ニコラス・ローグ「赤い影」(1973)の直接的な影響下にありつつ、ヒッチコック的な「階段」使いやダリオ・アルジェントの初期ジャッロ作品との関連を伺わせる。カットを割りまくる殺害シーンや鏡の効果的な使用法など、ユーロ作品に漂う上品さがある(※)。

原題は、最初期の"Communion"(聖餐式)から何度か変更されているが、邦題にもなった"Alice,Sweet Alice"が最も人口に膾炙しているようだ。本作でデヴューを飾ったブルック・シールズが聖餐式で殺害され、その姉であるアリスが嫌疑をかけられる。もともとサイコパシーな行動が多く、疑いもさもありなんというところだが、さらに、彼女が嫌う伯母が襲撃され、アリスはどんどん追い詰められていく…という筋書き。

黄色いレインコートにお面姿の殺人鬼が包丁を得物に被害者に襲い掛かるが、なぜか被害者が階段で襲撃されることが多く、製作側からしても見どころであるのは間違いない。また、12歳設定のアリス役(ポーラ・シェパード)が実は撮影時には19歳を迎えていたとのことで、少女にしては妙に成熟した顔つきや表情はコレット=セラ「エスター」(2009)を想起させ、本作に漂う不穏さの演出にひと役買っている。母親役とのヒリヒリするようなやり取りも見ものである。

ただ、犯人が中盤過ぎに正体を現し、そこからはその動機と行動に収れんするが、現代的な家族像とカトリシズムとの相克に端を発しているので我われにはわかりにくいところがあるし、アリスとの関係性も見えにくい。クライマックスはなかなか盛り上がるが、やや消化不良の感があるのは惜しまれる。

※「ヨーロッパを経由したヒッチコック」ではあるのだが、ヒッチコックがそもそもイギリス出身なのでさらにややこしい
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