「身分証明書」
冒頭、大学を中退した青年アンジェイ。
毎日を無為に過ごす24歳、居場所を見出せない彼、突如兵役を志願、今、職に着くまでの16時間を成り行きに任せ過ごす物語が長回しと移動撮影の多様により映し出される…
本作は親日家であるイエジー・スコリモフスキが1964年に監督した“アンジェイもの”の第1作で、この度DVDボックスを購入して初見したが素晴らしい。
まず独特の長回しは印象を残し画質が悪い分、逆に良い雰囲気が味わえる。夜の街に燃え上がる炎の描写なども印象的だ。
さて、物語は朝方に目を覚ます青年アンジェイの隣には彼女が寝てる。大家に金を払えと言われるも誤魔化し、外へ出る。
彼の飼っている犬は狂犬病になり安楽死させられる。
続いて、徴兵委員会に出頭し、兵役を懇願する。次に街中で友人ムンデクに会い、カフェへ…と午後5時過ぎから午後3時過ぎまでの約16時間を主人公の行動で描写し、彼の苛立ちと無力感を描いて断片的な撮影で映し出した"成行さ"を描いた映画で簡単に説明するとこんな感じで、
監督がウッチ映画大学在学中に制作した作品で、友人だったムンクの指導のもとに撮影されているらしい。
この映画驚く事に3時間20分ぶんのフィルムを1時間10分に編集し39ショットで構成されている。
物語自体は60年代前半のゴムウカが、統一労働者党第一書記だった時代の9月1日に設定されている。
それにムンデクはポーランド青年同盟の委員長と言う肩書きにもなっているし、とりわけワルシャワ蜂起の事情を知る上で軍事的には反ドイツで政治的には反ソ連と言うかなり複雑な地政学的位置にいるポーランドの悲劇が本作からでも少なからず伝わってくる。
これ多分、監督の実人生を反映しているんじゃないかなと思う。
それにしてもこの監督の作品をほぼ鑑賞したけど、事故姿が多く見受けられる…というか飛び降りをテーマにしている部分もあるのかな…。
それが目立つ。スコリモフスキの"やぶにらみ"回想録を読んで分かった事だが、師匠であるムンクが交通事故で亡くなった為に、彼の作品には多くの危険行為が映されているのか…
ポランスキーとスコリモフスキは父の様にムンクを慕っていた事が改めて分かった。
まず、監督自身が主人公なのだが、もの凄く若くハンサムだ。あの可愛らしい小型犬も印象を残す。
後に作る作品のほとんどがポーランド社会に対する身近な人間の奮闘を映しているように思えた。