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優しき殺人者のryosukeのレビュー・感想・評価

優しき殺人者(1952年製作の映画)
3.7
ロバート・ライアンが坂を駆け降り、ロングショットの中を失踪し列車に転がり込むと、カメラに向かって列車が真正面から向かってくる。このオープニングには噴出する爆発的なエネルギーがあったのだが、しかしこれは最初だけでその後は割と地味な室内劇へと移行する。ワンシチュエーション故に地味で劇的な描写は少ない会話劇なのだが、アイダ・ルピノとロバート・ライアンという二人の名優に委ねれば何とかなるだろうというところだろうか。その目算は概ね当たっているように思われ、短尺もあって退屈はしなかった。
「清掃は男のする仕事ではない」という台詞に強い反応を示すロバート・ライアンは、軍隊で有用性を示せなかったことにトラウマがあり、その軍服への執着からも、彼の男性性への拘りが見て取れる。50年代初頭の作品だが、「有害な男らしさ」に関する映画に仕上がっており、彼は女を殺すことで、剥奪された男性性を回復しようとしているのだろう。そういう意味で、タイムリーなフェミサイドを描いた作品であった。
190㎝以上もある長身のロバート・ライアンが自宅の鍵を閉めて出て行かないのはさぞ怖いだろうな。彼の図体のでかい不気味な存在感は当然活かされている。ロバート・ライアンは思い詰めたような険しい表情の中に内に秘めた深い闇を感じさせる役がよく似合っているな。
倒れた女を見ると逃走するという流れが染み付いているのであろうロバート・ライアン。ルピノは気絶したことで助かったのだろう。
鏡の中に迫り来るロバート・ライアンが映し出されているショットなど印象的だったが、本作で最も際立っているショットも、ツリーの複数の飾りに階段を降りてくる彼が反射しているショットだった。この辺りは拘りが見えてよかった。
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