クシーくん

ローカル・サッカー・クラブのヒーローのクシーくんのレビュー・感想・評価

3.1
この年代のイタリアコメディは初めて観たかも。肝心のサッカーシーンは薄めなので、スポーツ映画ないしサッカーを期待して観る向きには肩透かし。逆にサッカーに興味がない私はある意味安心して観られた。

バチカン職員をしているクソ真面目な堅物男ベニートの元に「父危篤すぐ帰れ」の連絡が届く。父リベロはワンマンな地元の名士で長年妻子と別居しており、若い愛人にワイナリーの経営を任せて、自身がオーナーを務めるサッカークラブ「ボルゴロッソ」に熱中していた。
父から家屋敷、田畑、工場の経営権そしてボルゴロッソを相続したベニートは、切手収集が趣味でサッカーへの知識も興味も皆無な為、早々にクラブと選手の売却に取り掛かろうとするが、地元住民の実に9割がファンだというボルゴロッソへの仕打ちに市民が激怒、自宅に暴徒が押し寄せる。
止むに止まれず流されてサッカークラブの運営を続ける事になったベニート、当初は人々の異様なサッカー熱を理解出来なかったが次第に感化されていき、サッカーの魅力に取りつかれるようになる…という話。

アルベルト・ソルディという俳優、私は全然知らなかったが、イタリア本国ではコメディからドラマまで幅広く演じ、ハリウッド映画にも数多く出演した名優で、「素晴らしきヒコーキ野郎」では石原裕次郎とも共演していたとか。フェリーニの「青春群像」に出ていたとあり、そういえばやたら声と体格がデカい人いたな…と思いだした。
本作は事実上ソルディのワンマンショーのような物で、石部金吉だった主人公がズレた薫陶を受けながら明後日の方向に迷走、爆走していく様が面白い。

ベニート邸に暴徒が押し寄せるシーンもそうだが、物語終盤観客がサッカーグラウンドに乱入して暴れ出したり、民度がヤバ過ぎて笑う。これイタリア人のサッカーファンは怒らなかったのか?それとも実際あんなだったのか?
暴徒に屋敷を囲まれたベニートが背水の陣、バルコニーから一世一代の名演説をぶち上げて暴徒を一転、信奉者に変えてしまうシーンは、ムッソリーニのパロディ。つい先ほどまで暴徒から逃れる為に女装していた為、見上げる聴衆からはスーツ姿の勇ましいベニートしか見えないが、実は下半身はスカートを履いたまま…というギャグで茶化してはいるが、やはりイタリアではドイツのナチスほどタブーじゃなかったんだなと感じさせられたワンシーン。

解説によれば当時のイタリア社会を風刺している描写が多々あるらしい。笑い所が良く分からなかった箇所なんかは恐らくそうなんだろうな。最後のオマール・シボリが出てきて大逆転!うおおおおみたいなのもサッカー全く知らないんで理解出来なかったが、この辺はサッカーファンだと納得いく描写なんだろうか。
そうしたピンと来ない描写はままあるし、ギャグ自体も流石に古臭いが、ソルディの爆発的な存在感のお陰でそこそこ楽しく観られた。
クシーくん

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