めしいらず

キングダムのめしいらずのレビュー・感想・評価

キングダム(1994年製作の映画)
4.5
四半世紀ぶりの新作「キングダム エクソダス(脱出)」が公開されたということで旧作を引っ張り出して再鑑賞。デンマーク版「ツインピークス」と呼ばれているけれど、個人的にはこちらが断然面白い。巨大病院で起こる様々な怪異と、それ以上に奇っ怪で毒々しい人間たちによる院内群像劇が、セピア調の独特な映像の中で展開される。ホラーテイストとコメディテイストのバランス感覚が絶妙で少しも飽くところがない。仮病入院を繰り返し院内の心霊現象を勝手に調査している霊媒趣味の老夫人ドルッセ。世界一大きな肝臓ガンの標本欲しさから己に臓器移植させる病理医ボンド。なびいてくれないセクシーな年増看護師に解剖死体の生首をプレゼントする医学生モッゲ。手術に立ち会えないがスプラッター映画に嬉々とする女学生。地階で便利屋的に暗躍する医師クロウスホイと、彼の恋人で異常な妊娠経過を辿る女医ユディット。傲岸不遜で他人を睥睨しつつも己の医療ミスへの調査に気が気でない主任医師ヘルマー。いびつな人間関係にも院内で起きている異常事態にも気付かない鈍チン医師長メスゴー。一癖も二癖もある彼らの行状のイカれ具合が堪らなく魅力的。ドルっセ夫人が入院患者を捕まえて夜な夜な催す降霊会。様々な人の思惑であちこちする生首の行方。医師たちの飄逸なミーティング”朝の空気運動”。病院のお偉方医師たちの奇態な互助会”友愛会”。散々な大臣視察。ゾンビの秘薬を入手するためハイチに飛ぶヘルマー。そんな珍妙な事件と並行して静かに進行している怪異。エレベーターの天井裏から聞こえる少女の泣き声は何を訴えたいのか。深夜にやって来る謎の無人救急車の正体とは。催眠による開頭手術中に目を開いた脳腫瘍患者が見たものとは。医療ミスで廃人となった少女の虚ろな目は何を見ているのか。ユディットの異常妊娠の真実と、その余りにおぞましい結末とは。全ての成り行きを承知している皿洗いの知的障碍者が狂言回しとなり物語が進行していく。そして物語はまだ序盤である。

※尚、本シリーズを気に入ったスティーブン・キングが脚本を書いた「キングダム・ホスピタル」というのもあるが、とても最後まで見通せないくらいつまらない代物だった。散々揉めた末に作ったキング版「シャイニング」の時の二の舞である。キングがノリノリで映像化に絡むと必ず碌なことにならないのは皮肉だなあ。
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