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ヨコハマメリーのKのレビュー・感想・評価

ヨコハマメリー(2005年製作の映画)
4.5
1960年代初頭から30年以上もの間、横浜で娼婦としての生き方を貫いた83歳現役娼婦の女性のお話。

歌舞伎役者の様な白塗りに貴婦人のような純白のドレス。背骨が曲がった小さな身体で伊勢佐木町の角にひっそりと佇むその姿はいつしか横浜の街の風景の一部となっていた。

本作はメリーさんと交流のあった人達を訪ねて回り、彼女に関する証言を集めたドキュメンタリー作品。

ある人は彼女を「気品のあるフランス人形だと思った」と語り、ある人は「死の影がついてくる死神のようだ」と語る。

様々な人の人生に焼き付いた、戦後の日本を懸命に生きるメリーさんの姿。

ラストには今まで自分から語ってこなかった御本人が出演される場面があるのだけど、素のお顔でやわらかな笑みを浮かべる老人ホームにいるメリーさんを見た瞬間、何故だか胸がいっぱいになって涙が溢れて止まらなかった。

私が何も知らずに通り過ぎていたあの街で、彼女は当時何を見て、何を考え、あの場所に立っていたのだろう。
生きるために自らの身を売ることがどれほど苦しかっただろうか。

「ありがとうございました」と感謝の意を述べて立ち去るメリーさんの力強い一歩一歩は、私達が暮らすこの地のどこかにも今も足跡が残っているのであろう。

メリーさんが老いゆく身体と共に深く根を下ろしたこの横浜を、私も力強く、そして時に彼女を思い出しながら大事に踏みしめて行こうと思えた。
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