Fitzcarraldo

男はつらいよ 寅次郎子守唄のFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

3.3
◯とらや

昼時で忙しく働く、おいちゃん、おばちゃん、さくら。

楊枝を咥えた寅次郎2階から降りてくる。

寅次郎
「あ〜あ退屈退屈。さくらちゃん、昼メシまだかい?」

さくら
「お兄ちゃん、みんなが忙しい時は少しぐらい手伝ったらどうなの?」

おいちゃん
「はぁ〜どいたどいた(寅次郎を押しのける)」

寅次郎
「何を手伝うんだオレが!」

さくら
「たとえば子守りをするとかさ」

寅次郎
「冗談じゃないよお前。オレが子守りなんかできるわけないじゃないか」

さくら
「だってお兄ちゃんが連れてきた子でしょ?」

おばちゃん
「あんたにはね情愛ってもんが欠けてんだよ」

寅次郎
「欠けてるかね?上等だよ。他人様の子だもんな」

さくら
「なんて言い方するの」

おいちゃん
「ほっとけほっとけ。コイツには父親になる資格なんかねぇんだよ」

寅次郎
「ケッ!まったくねぇよそんなものには。クソ面白くねぇなぁ…昼メシも晩メシも要らねえや!…どっか面白ぇとこ行って遊んでくるよ」

表で店内をキョロキョロ伺う木谷京子。

ハートを射抜かれる寅次郎。

寅次郎の後ろにいるさくらに気づく。
ニコッと笑う。

京子
「こんにちは」

寅次郎
「(笑顔で返し)こんにちは」

京子
「やっぱりここだったわ。昨夜伺ってたものですから」

さくら、寅次郎の前へ出る。

さくら
「あぁどうも。昨夜はお世話様でした」

京子
「いかが?赤ちゃんの様子は?」

さくら
「ええもうすっかり。おいちゃん!おばちゃん!」

寅次郎
「おいちゃん!おいちゃん!」

さくら
「病院の看護婦さん」

寅次郎
「病院のきゃんぎょふさん」

さくら
「ほら、いつも噂してる」

おばちゃん
「まーまーどうも、いつもウチの者がお世話様になりまして」

おいちゃん
「今日はまたわざわざ?」

京子
「いえ夜勤明けでね。ウチへ帰るところなんです。金町まで買い物があったものですから」

おいちゃん
「そうですかそれはそれは」

おばちゃん
「本当にどうもありがとうございました。お陰様でね今朝はよくミルクを飲みまして」

京子
「あらそう、よかったわ。少し痩せてるから心配しちゃった。(赤ちゃんへ)よかったわね〜元気になって。あんたお父ちゃんもお母ちゃんもいないのね〜かわいそうに」

おばちゃんを押しのける寅次郎。

寅次郎
「さくら〜。あっ、赤ちゃんをどうもありがとう…オレが抱こうか?いつもの通り。ね、はいはい。(赤ちゃんを奪う)」

さくら
「あっ、私の兄です」

京子
「あ〜この方、昨夜のお話にでた?」

さくら
「えぇ。お兄ちゃん、病院の看護婦さん。昨夜お世話になったの」

寅次郎
「寅次郎です。どうも宜しく」

京子
「木谷京子と申します。事情は妹さんからお聞きしましたわ。大変でしたわね〜?」

寅次郎
「えぇ思わぬ苦労を背負いこんじゃいまして」

京子
「でもそうやって抱いてると可愛いでしょ?」

寅次郎
「そうですね〜情が移ると言いますか、まるで他人様の子どもとは思えなくって」

京子
「良い方に拾われてよかったわね」

寅次郎
「オレはほらあの子供好きだもんなさくら」

さくら
「そうね」

寅次郎
「好きだな〜」

京子
「安心した。それじゃわたしこれで」

寅次郎
「あ、もう?」

おばちゃん
「お茶を一杯でも」

京子
「いえ、私ウチへ帰ってひと休みしないと…なにしろ眠くて眠くて」

寅次郎
「看護婦さんのお仕事というのは大変なんですねぇ」

京子
「それじゃ失礼致します」

店を出る京子。

寅次郎
「またドーゾ(送り出す)」

店内へ戻る寅次郎。
さくらへ赤ちゃんを渡す。

寅次郎
「そういうわけだったのか?」

さくら
「なにが?」

寅次郎
「とぼけんなよこのヤロー。どうもおかしいと思ったんだよ。オレが昨夜帰って来た時、お前たちオレのことを病院に行かせない算段したろ?」

さくら
「しないわよ」

寅次郎
「したしたしたよ!この野郎…ヒロシをちょっと呼んでこい!あの野郎脅かしてやるんだ。ヒロシの奴ちょっと呼んでこい!」

京子戻ってくる。

京子
「肝心なこと忘れちゃって」

寅次郎
「はいはいはいはい(さくらから赤ん坊を奪う)いらっしゃいませ。なにか?」

京子
「いえお団子買って行こうと思ってたのに」

寅次郎
「あぁそうですか…お団子ですって(片手でさくらを払うように)ハイハイ…ったくお前も愛想のない女だねぇ。情愛ってものに欠けてんじゃないかい?お前は」

京子
「あら〜そんなこと」

寅次郎
「いえねぇ、私が抱けやね、こうやっておとなしいのに、アイツが抱くとギャァギャァギャァギャァ泣くんですよ」

京子
「でも、あんまり抱くと抱き癖がつきますよ」

寅次郎
「えぇ私もそのこと心配でしてね」

さくら、お団子持ってくる

さくら
「お待ちどうさまでした」

寅次郎
「あっできたか…ハイハイハイ」

京子
「それじゃ具合悪くなったらいつでも来て下さい」

寅次郎
「いつでもいらっしゃいます?」

京子
「あ、はい」

寅次郎
「あ、そうですか」

京子
「それじゃ失礼致します」

店を出る京子。

寅次郎
「さあさあお母ちゃんハイ」

逃げるさくら。

さくら
「お母ちゃんなんかじゃありませんよ」

寅次郎
「おばあちゃん!」

逃げるおばちゃん。

寅次郎
「おじいちゃん!」

逃げるおいちゃん。

寅次郎
「あっ!タコちゃん!」

タコ社長
「よぉ!赤ん坊元気になったか?」

寅次郎
「なったなったなった(強引に赤ん坊を渡す)あ〜メシでも食ってくるか」

店を出る寅次郎。


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コーラス団の大川弥太郎を演じるヒゲ面の上條恒彦

◯大川弥太郎の部屋
恋愛談義をする寅次郎と弥太郎

弥太郎
「じゃぁ…寅さん一体ぼくにどうしろっていうんですか?」

寅次郎
「おもいきって何でも言ったらいいさ!惚れていますとか、好きですとか」

弥太郎
「そしたら、どうなりますかね?」

寅次郎
「断れるのに決まってる」

弥太郎
「な〜んだ」

寅次郎
「しかし無駄ではないんだよ。お前がそれで諦めることができるから。な?また別の角度のオタフクを探し求めていけばいいんだ」

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「おもいきって何でも言ったらいいさ!惚れていますとか、好きですとか」
この昭和スタイルの告白をしてる輩が令和の時代にどれだけいるのだろうか?是非ともこのスタイルは残してほしいと切に願う…。


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◯とらや

寅次郎の助言により、京子と結ばれることに…その御礼に来る弥太郎。
嬉しそうに帰って行く弥太郎。
さくら、心配で様子を見に行く。

◯寅次郎の部屋
さくら部屋に入る。
旅の支度をしてる寅次郎。

寅次郎
「お…さくらか。あんちゃんな、そろそろ旅に出るよ」

さくら
「大川さん何の用だったの?」

寅次郎
「なに、なんだか礼かなんか言ってたよ。早ぇ話が瓢箪から駒が出たんじゃねぇかな?ま、よかったじゃねぇか、さくら、な?」

ここの渥美清の哀愁の漏れ具合が半端じゃない!こんな自在に哀愁なんか出せるのか?表情も素晴らしい!この幅の広さと緩急の落差が…オバケフォークどころじゃない。
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