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ピーター・パンのsyuheiのレビュー・感想・評価

ピーター・パン(1953年製作の映画)
4.0
1953年のクライド・ジェロニミ、ウィルフレッド・ジャクソン&ハミルトン・ラスク監督作品。超ひさしぶりに全編とおして観た。

ロンドンに暮らすウェンディ、マイケル、ジョンの姉弟はピーターパンの物語に夢中。ある夜、そんな3人のもとに本物のピーターパンがティンカーベルとともに現れる。決して大人になることのない子供の楽園ネバーランドへ飛んできたウェンディたちだったがフック船長の悪だくみに巻き込まれてしまい…。

初めて本作を観たのは1982年に榊原郁恵さんが声優を担当したTBS放送版。本編開始前にミッキーマウスマーチを子供たちと歌う榊原さんが登場したほか翌年に東京ディズニーランド開業が控えていたためCMも「まもなくオープン」というTDLのものばかりだった記憶がある。VHSに録画して擦り切れるほど観た。

思い出補正がかなり入っているものの、作画の流麗さ、背景美術の美しさ、構図の決まり具合は70年以上を経た今観ても素晴らしい。特に、妖精の粉で飛べるようになったウェンディたちが夜のロンドン上空を飛翔するシーンでのアングルと美術の巧みな切り替えは息を呑むほど美しいシーンになっている。

音楽もキャッチーで"You Can Fly!"と"Following the Leader"はつい口ずさみたくなる。子供のころは愉快でたまらない大好きな映画だった。ただ、大人になった今あらためて鑑賞すると弱いところもある。ストーリーラインは盛り上がりに欠けるしキャラクター描写も浅い。ジョンとマイケルはほぼ飾り。

肝心のピーターパンもそれほどカッコよくないし榊原郁恵さんの声でかなり補正されていたのだなと思った。むしろ敵役のフック船長とスミーは表情豊かで魅力的なキャラクターだ。チクタクワニとのドタバタ劇は声を出して笑ってしまった。「スミー」ではなく「スミーくん」とした訳出はうまい。

意図的かどうかわからないが大人の目で見ると不気味な描写が多い。ネバーランドは子供たちの楽園のはずだが意地の悪い人魚、野蛮で冷酷なインディアン、やたらと「喉を裂く」という表現を使う海賊たち。ピノキオのプレジャーアイランドに通じる不気味な雰囲気がネバーランドには充満している。

ストーリーライン的にはウェンディが子供から大人への成長を決断する物語が主軸のはずだがキャラクターアークがいまいち弱い。なにしろ70年前の、それも80分に満たない映画やしね。それでも彼女や母親の繊細な表情の動きは素晴らしく、芸術的な美しい手描きアニメーションを堪能できる。

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