てづか

みな殺しの霊歌のてづかのレビュー・感想・評価

みな殺しの霊歌(1968年製作の映画)
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概要としては、起こっている事件は同じことなのに、男がするのと女がするのとでは何故こうも違って捉えられてしまうのか…という映画だった。


扱っているテーマは大事なことだし重いものではあると思うのだけど、映画全体の雰囲気としてはコミカルさすら感じるくらいで、初めは少し戸惑った。
リベンジする相手が5人もいるので、序盤とラストの相手だけガッツリ描写してあとはカットしていく潔さがいい。

終盤は特に印象的なシーンやセリフも多くて割と物語に入り込めたと思う。

セリフはやや多めにも感じたけど、こっちがなにか考える余白を全て奪うって程でもなかった気はする…。ちょっとそこら辺は私には評価なんか出来ないところではある。自信ない(笑)



男が女を強姦するのと、女が男を強姦するのとでは、圧倒的に後者の方が軽く捉えられているイメージが今もある気はする。
そして今となってはなにかと女性優位な世の中というか、一部の女性たちの声が大きすぎて、女性になにかを言っただけで女性蔑視と言われかねないという側面もあるにはあるのでこういう映画は貴重かなと。
我々女性は、弱さという最強の武器を振りかざして男性を追い詰めることができてしまう。そういう自覚は持っていないと絶対にダメだなと個人的には思う。


やっていることや与えている恐怖は同じかそれ以上であるのに対して、加害者である女側がそれほど悪い事だと思っていないという認識の悪質さがあるぶん、そっちの方がタチが悪いんじゃないかと思ったり。
世間的な印象も同じく女性の犯罪に対しては甘いことがこの映画の中でも充分に描写されていたし、「だってあの子も楽しんだじゃない」という台詞にすべてこもってる感じがした。
観ているこちらにもいちばんショックを残す台詞だと感じた。

男でも女でも、そうなりたくないのに生理的に身体が反応してしまうからこそ精神的に打ち砕かれるということがあるはずだと思うし、その精神的ショックを与えた側がなにも自覚していないという恐ろしさ。不愉快さ。惨たらしさ。醜悪さ。

いちばんの被害者である少年が、主人公の島とは血縁関係でもなんでもないという設定が良かったなあと思う。
家族でもなんでもなくても、きっとあの少年は島がいつの日か失った(もしくは奪われた)いちばん美しいなにかを持った子であったのだろうし。些細な関わりであったとしても、きっと暗闇の中で唯一信じられる光であったのだろうことは観てものすごく感じた。島の過去に何があったか、ってのは実際全然語られないけど、むしろ全然語られないからこそ良かった。きっとあの少年と出会うもっとずっと前から、死ぬしかないと思って生きていたんだろうなぁ、と。
それを感じさせる映画の展開の仕方や佐藤允さんの演技がすごく良かったなあと思った。

生きる希望みたいなものってのは、周りから見たらとても些細に思われるようなことだったりするよねっていう。
そんなことも分からないから、平気で彼女たちはそれを踏みにじることが出来るんだろうなと思わずにいられなかった。

佐藤允さんの表情はあまり激しく動くこともなければいつものように快活に笑うことなんか劇中ほとんどなかったけれども、だからこそあの回想の一瞬の笑顔が切なく心に効いてくる。

あとやっぱり、佐藤允さんってこういう役をやっていてもなんだか可愛いというか…独特の愛らしさ、みたいなものがあるような気がしてしまう。大の大人の男性に失礼極まりないとは分かっているけど。そういう所にめちゃめちゃ惹かれる。


まあそれは置いといて。
映画全体を通して佐藤允さんの身振りやわずかな表情の揺れから主人公の葛藤も伝わってきたし、逆に全くブレない視線からはどうしようもなくおさえられず行き場のない怒りを感じた。要所要所でダイレクトに感情が伝わる感覚があった。

ローアングルからの顔面アップを多用していたのも、そういう意図があってのことかしら?と思ったけど、ただ単に監督の特徴なのかな?そこら辺もあんまり分かんないが…(笑)

怒り、悲しみ、どうしようもないやるせなさ。それでも同じ孤独をもった心に惹かれてしまう虚しさ。葛藤。それでも揺るがぬ結末。

倍賞千恵子さんが荒川で佐藤允さんの指を吸うシーンはとてもロマンチックだと感じて泣きたくなった。あのシーンは光の加減?もあいまって美しいシーンだとおもったし、都会の街並みが多く映し出されていたなかでただ一つだけなにか特別なものがあった感じがした。その後のトークショーで佐藤さんも仰っていたけど、きっとそれが映画ってものが宿った瞬間なんだろうなと。


ラストカットもすごく良かった。
きっとあのメッセージも伝わっていたし彼が来ないことは分かっていただろうに、彼女がそこに来て泣いていた意味を思うとこちらも泣けてしまう。
破ってしまったモンタージュはもう二度と元には戻らない。

この映画を自己ベストと言いたかった佐藤允さんの思いを想像すると、やっぱりなにか世の中に怒っていることがあったのかなあと思ったりもしてしまう。

そんなことは本人にしか分からないことだけど。


ポスターの過激な煽り文句も含めて、結構好きな映画だった。
救いようがない結末もとても好き。
てづか

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