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傷だらけの山河のHKのレビュー・感想・評価

傷だらけの山河(1964年製作の映画)
4.5
石川達三原作の小説を『武器なき斗い』『松川事件』などの山本薩男監督が映画化。キャストは山村聡、若尾文子、北原義郎などなど

電鉄やバスなどのあまたの交通関係の事業の他、様々な事業にも手を出して巨万の富を得ている一人の事業家がいた。彼は政略結婚で既に妻子を持っていながら、二人の妾相手にも手をかける非情な男だった。そんな男がさらに第四の女で芸術家志望の彼氏との貧乏暮らしに嫌気が刺した女に手をかけようとしていた。

山本薩男特集で鑑賞。スパイのついで感覚で長いけど見てみようかなと思ってみたらこっちのがすごい面白かった。山村聡の悪気なく人の人生をぶっ壊していくサイコパス演技が素晴らしい。

常に笑顔を絶やさずに交渉相手にも自分の弱みというのを見せず常に余裕の立ち振る舞いをしながらも、数多の女たちを自分の所有物にしてその間に生まれた子供たちのプライドをも懐の深さと許容の高さで軽々しく蹂躙していく姿はすさまじい。最早一種のカリスマ性を感じ取ることが出来る。

なんというか、この山村聡演じる男からはかのロケット技術開発の先駆者であるフォンブラウンさんをも思わせる風格を持っている気がする。自分の物にして成長させるためにはどれだけ非人道的な手段を使ってでもやり遂げる。なんかもう笑えて来たよ。

信頼を置く部下や社員ですら役に立たなければあくまで彼らをぞんざいに扱うこともせずに上手い具合に自殺まで追い込めるそのスタイルは最早すさまじい。

脚本の新藤兼人さんらしい同軸上において対照的なキャラクターが登場するのがこの映画の面白い所、彼が手懐けた二人の妾の下で産まれたそれぞれ別の子供は、一方は母親を憎み、一方は父親を憎む。どちらの母親も夫の下敷きにされてどうしようもないが、二人とも見てる方向は違うものの両方とも性格が歪んでしまっているのが特徴。

そんな彼の第4の女になってしまった一人の女も、貧乏生活の中夢を追っていたのだろうが、次第に現実の辛さに呆れ果て、ついに悟って飼い犬に墜ちていく姿は最早現実の非情さを露骨に表していて良かった。

最後まで反省することも罪悪感を感じることもないが、そのカリスマ性で次第に会社の規模をでかくしていく様はまさにモンスターで、見れて良かったですね。「ゼアウィルビーブラッド」の主人公みたいな怪物ですが、
あっちのがまだ人間味あった分、こっち何もないですからね。

山本薩男監督らしい社会的巨悪を打ち破るような舞台設定でありますが、この作品は寧ろそんな巨悪の蹂躙する様を見せることによってその恐怖を感じさせる説話のように感じた。

顔のドアップの切り返しなどは喜八映画の顔面クローズアップにも負けない程の迫力を見せて良かったと思いますよ。見れて良かったですね。
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