瀬口航平

リンカーンの瀬口航平のネタバレレビュー・内容・結末

リンカーン(2012年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

上映当時映画館で観た。ダニエルデイルイスがすごかったという記憶。

リンカーンは、史上最も愛されている大統領だとある本で読んだ。理由は、彼が類稀ないギバーだから。自分を犠牲にしてでも他人に尽くす精神の持ち主。
どんな人か気になったので観た。ダニエルデイルイスなら、かなり忠実にリンカーンを演じてるはず。現状存在する人類の中で、かなりのトップレベルで当時のリンカーンを再現しているはず。

たしかに、彼の人心掌握術はすごい。。持っている志の純粋さと、それを実際に実現する強かさや覚悟、弁護士を努めてた経歴からか、自分と明らかに違う意見を持つ人への対し方がすごく上手い。それがスティーブンスとの対比で見事に現れてる。

とんでもないレベルの情熱と、それをコントロールする冷静さが奇跡的なまでにハマってる人なんだと思う。
そんな彼でも家族相手ではつい手が出てしまったり、妻を相手に感情的になってしまったり、人間的なところも垣間見える。だが、仕事の面では本当に彼が感情的になったのは一回だけだ。映画の中での話だけど、めったに声を荒げる人ではないのはたしかだと思う。
そのときだけ傲慢な態度だったけど、これはすごく効果的だと思う。普段キレない人間がブチギレたときの効果は強い。彼に元々敬意を抱いている人間なら尚の事効果は強いはず。

リンカーンは周囲の人間とはやっぱり雰囲気が違う。尊敬される人間かつ何かを成し遂げる人間の風格が見える。余裕がなくても余裕があるように見えるとか。

奴隷制廃止を押し通したいはずなのに、意見を押し付けているようにも見えないのよね。。相手の意見に対しての反感の色が見えないからかもしれない。必ずちゃんと受け入れる。それが嘘にも見えないし。エピソードトークがやたら多いようにも思うけど、エピソードトークってどうしても長くなるから、その長話によって主導権を自然と握れているのも大きい気がする。言葉の選び方も巧みな気がする。

奴隷制なんて、どう考えても明らかに辞めたほうがいいことなのに、わかってるのに賛成できないのは、それによって経済的な打撃があるから、とか不利益を被る人たちが必ずいるんだよね。あと、未知の世界を恐れるとか。未知=不安にやっぱりなっちゃうから。悪いことばかり浮かぶ。
原発反対とか核兵器根絶とかも同じ問題。いきなりそれをやろうとすると、同じ理由で反対意見が出てくる。
日常生活においても、明らかにやったほうがいいのに、やらない理由みたいなのを大事にしがち。そんな理由に価値があるのか、ってなるんだけどそういうとこ人間だわ。

人民の、人民による〜という有名な演説がないけど、おれはなくても良かったと思う。そういうエンタメ的な華やかなシーンではなくて、票集めみたいな泥臭いところを映画にしたことに価値がある。
集め方とか結構ユーモアあって好きだった。
リンカーンではなく、黒人の兵士が人民の、人民による〜を語るところとかすごく良かった。ちゃんと当事者の人間の心に響いているということ、どれほど当事者に期待され、必要とされている法案なのかが伝わるシーンだったと思う。白人の兵士にも響いていたし。
リンカーン本人の演説だけ入れても、一方的で、公的な場のものになっちゃうのがもったいない。ああいう個人間の会話で語られるもののほうが説得力ある。
瀬口航平

瀬口航平