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本陣殺人事件の消費者のレビュー・感想・評価

本陣殺人事件(1975年製作の映画)
3.5
・あらすじ
舞台は岡山県備前市
私立探偵の金田一は1人の少女を弔う葬列を見送っていた
少女の死は彼の予感の通り起きてしまった物だった
遡ること1年前
名家として名高い一柳家の娘、鈴子は一族の者達と共に長男の賢蔵と久保家の娘、克子の婚礼に参加していた
鈴子は花嫁として迎えられる克子の代わりに家宝の琴で見事な演奏を披露し無事に式は終わったかに思われた
元来、一柳家の者達は次男の三郎を除き克子との婚姻に反対していた
理由は家柄の格差による物
一柳家は備前市の本陣で大名達の泊まる宿を営んでいた由緒正しい一族であるのに対して久保家は元は小作人の家系だった
しかし賢蔵は強い意志を貫き通したのだ
婚礼を無事に終えた時、鈴子は叔父にある話をする
昨晩、人のいないはずである屋敷の離れから琴の音が鳴っていた、と
軽度の知的障害を持つ鈴子はそれを死んだ猫のタマによる物と考えているようだった
そしてその日の深夜、鈴子の話は本当だったと判明する事になる
女性の叫び声と琴の音色が響き渡り、内鍵の掛けられていた離れをどうにか一家の者達でこじ開けるとそこには結婚したばかりの賢蔵と克子が血を流し息絶えた姿があったのだ
事件の翌日、やってきた警察は叔父を送っていた為に事件を知らなかったという三郎に指が3本の男を知らないかと問う
現場の屏風に3本指の血痕が残っていた為である
三郎はその男に心当たりがあった
一昨日、近所の菓子屋に一柳家の場所を尋ねた男がおり、彼の右手は3本指
そして男は顔を大きなマスクで覆い隠した異様な出立ちだったという
更に男は婚礼を控える一柳家に手紙を渡していた
そんな話が出ている中、殺された克子の父である銀造に呼ばれやってきた1人の男
彼は私立探偵の金田一耕助
金田一は若い頃、渡米した際に野垂れ死にかけた所を銀造に助けられて以来、10年近く彼と親交があるらしい
捜査にあたっていた磯川警部もまたかつて難事件の解決に一役買った過去から金田一の事を知っていた
そうして金田一と警部達は共に捜査を進めていく事に
現場には逃げた形跡はおろか季節外れの雪によって足跡すらなく手掛かりと言えば庭に突き刺さった凶器の日本刀、そして男が一柳家に渡した手紙くらいの物だった
それは仇討ちを示唆する脅迫状
死んだ賢蔵のシャツのポケットから発見されたが彼自身の手でびりびりに破かれていたらしい
密室殺人、脅迫状、日本刀…
謎が謎を呼ぶ事件の真相
やがて明らかになるそれは予想だにせぬ物だった…

・感想
金田一耕助を中尾彬が演じた同名小説の実写映画版のサスペンス作品
金田一の人物像は他の映画作品とかなり異なり淡々と静かに捜査を進めていく様に描かれている
なのでコミカルな要素は無く、解決の糸口となる情報へと行き着く様にも派手さは無い
しかしそれが逆に良い空気を生み出していたと思う
中尾彬の演技も年を重ねた現在の様なくどさは無く見やすかった

良かったポイントは何と言っても他の作品が死に様のビジュアルを作り込んでいたのとは異なりトリックその物
犯行動機と上手く絡み合っていて面白かった

気になったのは冒頭に示される鈴子の死の理由
恐らく愛猫、タマと兄、賢蔵の死を後追いしたんだろうと推測は出来るし知的障害による幼い心で死を見送る事への恐怖を抱いたのかなぁと考えられはする
ただいかんせん、その心理描写が足らな過ぎたかなぁ、と…
他作品の様にもう少し強く悲哀を押し出しても良かったんじゃなかろうかと

後はATGが製作に関わっている事もあってか渋く暗い世界観に対して真相である賢蔵の殺人に偽装した自殺、そして兄へのコンプレックスを抱えていたからこそ彼の懇願に応え共犯者となった三郎の心理などがちょっと軽いというか浅いというか…
そう思ってしまうのも現代の感覚で観てしまっているからで恐らく公開当時の男尊女卑や女性への幻想の押し付けなどが当たり前だった価値観を持って観た場合はまた違ったんだろうとは思う
でも「薔薇の葬列」に見られた様なATGの先進性を考えたらやっぱり惜しかったかな…
とはいえ作品としては面白かった
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