レインウォッチャー

失楽園のレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

失楽園(1997年製作の映画)
3.0
道ならぬ恋に溺れるふたり…という、いわゆる不倫映画である以上にたっぷり森田芳光映画だった。急な揺れやズーム、音響の遊び、差し色に赤、とか。ブリッジ感覚で挟まれる濡れ場はむしろ休憩時間、お茶でも淹れよう。

真骨頂的にドライブがかかるのはようやくラスト10分、列車の中で目を閉じて進行方向とは逆に座るふたりは、どこか宗教的で引き返せない旅路を思わせる。
そこからはちょっと鈴木清順(『陽炎座』とかの)も想起させる空間で、食も性も同様に愉しむ口元から、これが本来の姿だと言わんばかりに重なる彫像めいたふたり、滴る赤と降り積もる白のコントラストが映えるのだった。

なんだかこのふたりが何故にそこまで惹かれあうのか、ロジカルに説明はされないままなのだけれど、理由なく「ただ在った」ことこそが本当だという気もしてくる。お互いに経済的な心配とは縁遠い感じ(二人用のマンションまで借りちゃうし)や、果てに選んだゴールも含めて、どこか貴族的な恋愛に見える。時代からはみ出してしまった存在、というか。
男は仕事に、女は家庭に失敗すると後がない、みたいな思考は今となれば絶命危惧種にも思えるけれど、30年近く前とはいえ世は既に平成なので、やはり生まれ・出会う時代を間違ってしまったということなのかもしれない。

逢瀬の間や、それぞれの暮らしに戻りつつそれを思い出し浸るふたりはいずれも年齢から解き放たれた少年少女のようで、濃い絡み合いとは打って変わって可愛らしく、純粋にこの時間を楽しんでいる様が伝わってくる。これを仕方ない、と片付けられるかは各人の価値観によるとして、内心(良いなあ…)と思っちゃう瞬間は見つかるのではなかろうか。
特に凛子=黒木瞳さん当時3・じゅう7さいの可憐さと言ったらなく、このふたりだから見てられる、ってのは大いにあるんだけれど。

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これは余談なのだけれど
本編が終わったのち、全力でミットを構えて《ZARD待ち》をしてたのだけれど、『永遠』が使われたのはドラマ版だったのですね。歯が生えそろうかどうかくらいの記憶で、なんとなくこの結びつきが頭に入ってた。