Kelly Reichardt編集・監督の長編第4作。
脚本はオレゴン州ポートランド在住の作家であるJonathan Raymond。
ケリー・ライカート
「思うに、私がレイモンドの作品に惹かれたのは、政治的に書くことなく政治的に書く能力があるからです。彼の物語にはメッセージも、明確なイデオロギーの方向性もありません」
これは大学時代に何も知らずにサタジット・レイとライナー・ヴェルナー・ファスビンダーについての授業を取った際に、ファスビンダーの映画を初めて見て「とてもパーソナルな映画でありながら、同時に政治的な一面を持っていて、こんな映画が作ることができるのかと、衝撃を受けました」とケリーが自ら語った初期衝動に通ずる。
出会うべくして出会ったのだろう…
”OLD JOY”(2008)以降、ずっとタッグを組んでいる。
さらに撮影監督のChristopher Blauveltも”Meek's Cutoff“(2010)以降の全てのライカート監督作の撮影を担当する。こういう信頼のおける人との出会い、そして作品を重ねていくことでより熟成されていく良さがあると思う。
このクリストファー・ブローヴェルトは”Mid90s”(2018)でも撮影監督を務めたのだが…確かに画のルックは格好良かった。
”Meek's Cutoff“のオープニングもまたカッコイイ。川を渡る牛、人…。ただそれだけなんだけど、なんでこうも画面に惹き込まれるのか?
これが地平線をフレームのどの位置に収めるかを極めた至高の芸なのか…
水場を求めて先住民であるインディアンと半信半疑の旅に…
異文化である先住民の言葉がワカラナイ。
ワカラナイからこその恐怖。
だから殲滅させてしまえ!という動物的感覚で野蛮な白人の考え方。
他者をどう受け入れていくか…
排除するだけじゃないんだと、動物的、野性的な男に立ち向かうミシェル・ウィリアムズ演じるエミリー。
闇をキチンと闇として描く。表情は、ほとんど見えないけど、それでいいんじゃないかな…
夜なのに、いかにも照明当たってますというのに目が慣れすぎてしまっているので…見えない方が余計に画面を食い入るように見るという逆転現象が起きる。
美しい夕焼け。
月にかかる雲の動き。
きぃーきー鳴る馬車の音…
特に何も起きないのに、なぜこうも見てられるのか…不思議な感覚。
いつもなら眠くなっても良さそうなもんだけど…
なにか惹きつけてやまないものがある。
それは何なのか?
わからないことを潔しとする、ある種の答えを出さないという頑とした拘りにあるような気がする。