クシーくん

吸血蛾のクシーくんのレビュー・感想・評価

吸血蛾(1956年製作の映画)
3.3
金田一耕助は池部良。キリリとした二枚目でカッチリしたスーツにネクタイ、ポマードで撫で付けた髪も良く似合う。全然金田一らしさはない。初登場から木陰に寄りかかり、煙草の煙を吐いてニヤリと笑う金田一。誰なんだお前は。

話自体はちょっとごちゃごちゃしてて分かりづらい。これを言うとネタバレになってしまうが「幽霊男」みたいな作品なので、各殺人に余り必然性がなく、行き当たりばったりな感は否めない。原作とほとんど違わない筋なので仕方がないのだが。ならず者みたいな連中も処理せずに終わってしまったため、解決し切れてない部分も少なくない。まあ単純にミステリ小説が原作の映画としては説明不足な部分が多過ぎるのだが、これは本作に限らずミステリ原作の映画に今なお付き纏う課題に思う。
また、圧倒的に夜のシーンが多いため、画面が全体的に暗すぎるのも少々難点か。

金田一が推理をするシーンが全然無く、最後に説明ゼリフで淡々と犯人に披露しただけなので、どう犯人を突き止めたのかもいまいち消化不良。恐らく純粋なミステリ映画として製作するつもりは最初からなくて、ホラー風味のフィルムノワールにしたかったのだろうなというのは映画全体からなんとなく伝わってくる。特に明らかに原作にはない犯人を廃墟で追いかける金田一、犯人が放つ銃弾をかわす金田一!余りにも余りな絵面のノワール金田一に思わず観ていて笑顔になってしまった。

ただ被害者が犯人によって飾り立てられるシーンだけはメリハリの聞いた白黒画面とかなりマッチしてて、実は今まで観た金田一作品の中で最も原作に合ってるんじゃないかと感じた。脚だけのラインダンスはどう考えても無理あると思うけどね。

一人だけめちゃくちゃ美人な女優さんがいてびっくり。初めて知ったが安西郷子さん、三橋達也との結婚で割りと早くに芸能界を引退してしまったようで残念。その相手役が千秋実というのもなんだか変なキャスティングだな。
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