Kz氏

麦子さんとのKz氏のレビュー・感想・評価

麦子さんと(2013年製作の映画)
3.5
再見した「ヒメアノ~ル」が引っかかって、吉田恵輔監督を追いかけたくなった。

ハートウォーミングだし、ラストの「赤いスィートピー」には涙腺を刺激されるのだけど、どこか違和感がある。

本作は1940~50年代に流行した母恋物のメタモルフォーゼだろう。母恋物の流行は、映画化もされた「岩壁の母」の悲哀、戦争に引き裂かれた母子が源流にあったのではないかと思う。惨劇が母子の情愛を高揚させていたのだとしたら、2010年代の惨劇とは何だろう。

余貴美子(事情があるにせよ)やふせえりの底なしの子煩悩は、気味が悪い。反抗期が明けないまま成人したような松田龍平や岡山天音は、ふてぶてしい態度とはうらはらに親離れができていない。彼らは共依存の陥穽にあり、家族でありながら、もはや家族は崩壊している。
母に見切りを付けた堀北真希だけがまともだが、彼女は母の愛に目覚めたのではなく、母が属していた古い共同体に憧憬しているだけだ。しかし、村人の全てがアイドルとして愛してくれる共同体など幻想だ。彼女の憧憬は、声優志望と同じく、夢として存在しているだけだ。
結局、この母恋物を成立させている惨劇は、最小単位である家族をも含めての、共同体の崩壊ではないだろうか。

……などと思うのは、うがち過ぎだろうね。
Kz氏

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