masahitotenma

月の寵児たちのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

月の寵児たち(1985年製作の映画)
3.5
オタール・イオセリアーニ監督が故郷ジョージア(旧グルジア)を離れ、パリに拠点を移して初めて手がけた長編作品(長編四作目)で、18世紀のリモージュの陶器(絵皿)と貴婦人の裸体画をモチーフにした物語。
タイトルはシェークスピア「ヘンリー四世」の泥棒の描写から。
特集企画「オタール・イオセリアーニ映画祭~ジョージア、そしてパリ~」で鑑賞。
ヴェネチア国際映画祭審査員大賞受賞。
原題: Les Favoris de la lune (1984)

物語に登場する人物は、
・パリの女画廊主、デルフィーヌ・ラプラス(アリックス・ド・モンテギュー)
・美容師、クレア(カーチャ・ルペ)
・爆弾をつくる技師、美容師のパートナー、ギュスターヴ(ベルナール・エイゼンシッツ)
・テロリスト(ヴィンセント・ブランシェット、オタール・イオセリアーニ、サボー・ラースロー)
・鉄砲店主(パスカル・オビエ)
・警視(ハンス・ペーター・クロース)と妻、子どもたち
・空き巣の父/画家、コラス(ジャン=ピエール・ボヴィアラ)と息子、ジュリアン(映画初出演のマチュー・アマルリック)
・娼婦、マドレーヌ・デュフール=パケ?(マイテ・ナヒル)
・ロック(パンク)歌手
・暗殺者のアラブ人などで、

登場人物(のエピソード)が裸体画と絵皿に絡み、重層的に(カラーとモノクロで時間も)交錯する、ゆったりしたテンポの群像劇になっている。

18世紀末に給仕が床に落とし広い集めた割れた絵皿。同じ絵柄を書き込んで出来上がった絵皿を馬車が運んでいく。
19世紀に画家は貴婦人の裸体画を画き、皿と共にオークションにかかる。

現代になり、絵皿はパリの女画廊主が、裸体画は警視が手に入れる。
裸体画は空き巣の親子に盗まれ、手始めにパンク歌手に渡る…。
絵皿は犬や馬や給仕などたくさんの人たちが踏んづけたり落としたり(くっ付けたり)しながら、空き巣の親子などを経由して、また誰かに渡っていく…。
更に、美容師のパートナーから爆弾を手に入れたテロリストは銅像の爆破事件を起こし、警察に追われる…。

~断片的エピソードなどから~
・タクシー乗り場で我先にと乗り込む人たち。一人だけ…。
・起爆装置付き爆弾の性能を○○で試す。
・寝室での警視と体格のいい妻との喧嘩を覗きみる子どもたち
・蛇口から流れ出す水の行方。階下には誰が住み、何がある?
・娼婦は誰の隣に住んでる。
・バスで席を譲った人と譲られた人
・盗まれるたびにどんどん小さくなる。
・子どもがイタズラした結果…
・ゴミ収集車の男は何を発見?
・取り壊される建物は?

ラストは屋敷の庭でお茶をたしなむモノクロ映像で、初めて見た人には唐突な印象で(監督はしっかり考えて)終わります。

"狩猟"の欲求が遺伝子に組み込まれている人類は、泥棒や破壊を止めない。
でも、泥棒だからテロリストだから全部悪い訳じゃない。世の中からはみ出す人も、息苦しい世の中だから、どっこい、ふらふら(時には本当に悪に)、生きている。
日々の生活はイヤなことばかりと感じるかも知れないが、本当は人生はすばらしい。
どの時代に生きても、どこで生きても、人々はイオセリアーニの映画で描かれたエピソードと似たようなことを経験したり、見聞したりするだろう。
相手を批判するだけでなく、許容できることは許容しながら、世の中そんなもんだ(C'est la vie.)とおおらかに生きられたら…。
彼は、2002年12月東京で、次のように言っています。
「人生は予期していなかったプレゼントさ。何が起こって人間は生きて行ける。
生きていくことは小さな遊びなんだ」
なお、オタール・イオセリアーニの作品は、スルメのように何度も噛めば、味がよく分かるでしょう(ボブ・ディランのように)  。
                               
masahitotenma

masahitotenma