てつこてつ

ボッカチオ'70のてつこてつのレビュー・感想・評価

ボッカチオ'70(1962年製作の映画)
4.0
ソフィア・ローレンとの重婚が世間を騒がせた当時のイタリア映画界の重鎮カルロ・ポンティ製作の下、マリオ・モニチェリ、フェデリコ・フェリーニ、ルキノ・ヴィスコンティ、ヴィットリオ・デ・シーカ(「自転車泥棒」という名作を世に輩出したこの監督名がここで抜けているのは許せない)といった当時のイタリア映画界を代表する巨匠と女優陣が集結した実に豪華な四話構成のアンソロジー。

第一話「レンツォとルチアーナ」マリオ・モニチェリ監督・脚本

★3.5 全四話の中では、比較的地味目な作品。主演のマリサ・ソリナスという女優さんも恥ずかしながら本作で初めて知った。でも、これまで日本で鑑賞できるイタリア映画と言えば、どうしてもカンヌやベルリン国際映画祭やオスカー外国語映画賞受賞作品など、それこそフェリーニやヴィスコンティのような大作かつリアリズムとはかけ離れた作品群ばかりだったので、1962年制作時のリアルなイタリアの恋人の実態の描写は個人的にとても新鮮に映った。デートは公衆プール、吸血鬼物のホラーを映画館で楽しんだり、日本もそうであっただろうが結婚した女性は会社を退職しなければいけないという時代背景も興味深い。相手役のジェルマーノ・ジリオーニという役者さんも、ジュリアーノ・ジェンマと言われても納得してしまうこの時代らしいイケメン。

第二話「アントニオ博士の誘惑」フェデリコ・フェリーニ監督・脚本

★4.2 フェリーニ好きの自分にはこのエピソードが一番好き。フェリーニ監督らしい斬新なアイディアや楽しさに満ち満ちている。主演のアニタ・エクバーグという女優の魅力を同監督の代表作でもある「甘い生活」同様に最大限に引き出している。中盤まで彼女は巨大な牛乳の看板に描かれる絵画(写真ではない!)としてしか登場せず、いざ本人ご登場となるのは、この看板がわいせつ過ぎると抗議を繰り返す博士の夢の中で、なんと、巨大看板の等身大サイズ。すなわち博士と対峙するシーンではゴジラばりの巨大な姿で描かれるのだが、スタジオの中にロケ撮影された街のミニチュア模型を作ってアニタ・エクバーグはそこに立って演技するという実にシンプルな撮影手法にも関わらず、この時代を考えると実に新しい発想だし、巨大サイズで描かれるアニタ・エクバーグのゴージャスとしか言えない優雅な動きが最高。演出上、あえて彼女の顔のどアップが多用されているが、この頃のアニタ・エクバーグの顔の骨格や目鼻立ちは完璧なまでに美しい。女性の美しさに素直に賛辞を惜しまず描き続けるフェリーニのスタイルはやはり好き。

第三話「仕事中」ルキノ・ヴィスコンティ監督・脚本

★4.0 この作品だけがコメディ要素が全く無く、アンソロジーの中では異端児的な存在だが、ある意味、ヴィスコンティらしい。迎えるのもオーストリア出身のロミー・シュナイダー。彼女だけが全作を通してイタリア人の女優さんではない。自分は同監督の「ルードウィヒ」やフランス映画「追想」でしか彼女を知らず、若い頃の彼女の演技を本作で堪能することが出来たのは嬉しい限り。娼館での散財ぶりをスクープされた若き伯爵の妻という役どころだが、電話の通話相手とのやり取りが主流となる、いわば一人芝居という非常に難しい役どころ。純真・嫌悪・嫉妬・憤怒の表情の演技が実に見事だし、ちょっとネタバレになってしまうが終盤には娼婦のような表情を、素肌にシャネルのドレスだけを着た姿で官能的に見せる下りは圧巻。舞台となる伯爵の豪邸の内装もケバケバしさしさはなく、本当に美しい家具や彫刻といったオブジェで見せるのも、さすが自身がミラノの貴族の血筋を引くヴィスコンティ監督のセンスと美学を感じられる。プレイボーイの伯爵役のトーマス・ミリアンも好演。唯一、汗の描写と伯爵には犬、伯爵夫人には猫のペットという分かり安過ぎる設定がヴィスコンティらしくないなとは思った。

第四話「くじ引き」ヴィットリオ・デ・シーカ監督

★3.8 主演を務めるのは監督との相性が抜群のソフィア・ローレン。遊園地の射的場で働きながら裏の顔は娼婦という役どころだが、同監督の「昨日・今日・明日」や彼女の代表作でもある「ひまわり」「ラ・マンチャの男」などを見ても、普通の庶民であったり、汚れ役を演じても決して下品には見えないのが彼女の最大の魅力。元々はナポリの海の女王に選ばれて映画界に入った彼女の抜群のスタイルも本作の見どころの一つ。娼婦という存在を決して否定的には描かない、鷹揚としたイタリア人気質の作風も好き。

レンタルDVDだと二枚に分けて借りる必要があったが、イタリア映画界の巨匠とヨーロッパを代表する若き日の女優陣の演技は実に見応えがあり大満足。
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