阿房門王仁太郎

捨てがたき人々の阿房門王仁太郎のレビュー・感想・評価

捨てがたき人々(2012年製作の映画)
3.0
この作品に於けるセックスは、只管快楽を得る事で、即ち快楽を与えてくれる他者の存在を通して承認欲求を獲得している様な感覚だが、その承認欲求の代償として配偶者や子供の様な桎梏が付いて回る。すると却ってその社会的基盤が自分が生きていて良いという太鼓判を、誰かに与えねばならない。然るにその他者を意識する事が極めて難しい。自分でさえいっぱいいっぱいなのに他人の事など構っていられるか、そういう感覚を思い出させてくれる。
自分の持分さえ満足に得られないのに社会的な生き物の条件として喜捨さえ要求する神、或いは意志を持たない形而下の事象であっても感じざるを得ない神性に対する戸惑いと憤りをただ勇助は海岸を彷徨い叫ぶのだ。

映画としては、原作にある程度沿っていた(再現が不可能であるシーンの改変も含め)と思ったが、原作を超えるショッキングなシーンは終ぞ現れず、原作をリアリティの座標に射影した感覚を受ける。この際、原作の持つ現実を超えた、戯画を通さねば表現できなかった世界の真実はある程度捨て置かれねばならなかったのが少し残念だし、原作で頻出した勇助の毒舌的なモノローグが一切見られなかったのは、余りに即物的な描写に寄り過ぎだと思った。
阿房門王仁太郎

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