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アバウト・タイム 愛おしい時間についてのmazdaのレビュー・感想・評価

3.7
自分のこだわりも貫きたいけどどこかで妥協もしなければならない、めんどくささが人間関係を表してるような映画。

好きな人と結ばれるためにタイムトラベルするといえば『バタフライエフェクト』もそうだけど、こちらはややコメディ色強めであまり感情移入はできない。
この時に戻れればこうしたのにと考えることは誰にでもある。誰だって失敗したくないに決まっている。
でもその失敗をしなければ学べなかったこともあるし、その道を通ったから出会えた人もいる。

大好きな彼女と初めてやるって時に、かっこいい男であるためにスムーズに事を進ませたくて何度もやり直す。これ以上ださいことはあるのか?というくらいださい。
もちろんこっちは一連の流れを全て見てしまってるからなんだけど、かっこよくできなかったこと、うまくできなかったこと、そういうのも含めて思い出になるのではないのか。
価値観の問題かもしれないけどキメキメの一発よりちょっとドジった一発の方がどう考えても楽しくて記憶に残ると思うのだけど。転んだり恥ずかしいところを見せられない相手なんて人間味なさすぎて私が彼女なら絶対嫌だな。
と考えると彼のタイムトラベルはとにかく無駄が多すぎた。絶対映画を見たり本を読むために使うくらいに留めておくのが正解。バタフライエフェクトのファンとしてはちょっとは見習ってくれよと思ってしまう。まあ似てるようで言いたいことが全然違う映画だと思うからあれはあれ、これはこれなのかもしれないけども。



ストーリーはさておき、主人公ティムが彼女に出会った暗闇のレストランの話について映画の内容とは少し離れるけどどうしても記録しておきたい。
作中では少ししか出てこないけどDans le noir? というフレンチレストラン。これがロンドンのファーリンドンという地区に本当にあり、イギリスで1番行きたかった場所と言っても過言じゃないかもしれない。ロンドンに行く人にすごくおすすめしたい場所。
本当に暗闇の中で食事をし、想像をはるかに越えて何も見えない。かすかにぼんやりとかもない。闇以上に闇。ちなみに働いてる人の半数が視覚障害を持っている。

レセプションにだけ灯りがついていて、そこで今日のコースとドリンクを決める。決めると言っても肉コースかシーフードコースか野菜コースかの3種類だけで(以前は何がでるかわからないサプライズコースというのもあったらしく鮫とか馬とか独特なものがでるという話だったけどそれはやってなかった)あとはアレルギーがないかの確認が終わるとどんな料理が出てくるかまったく教えてもらえない。
全ての荷物、ケイタイや腕時計までありとあらゆる光を発するものをロッカーにしまい、レセプションの奥の薄暗い廊下に進むと男性が立っていてあなたたちの今日のテーブルウェイターですと紹介がある。
私は女性の平均身長よりも低く、彼は180近くありそこそこ身長差があったけど、話していても視点が合わなくて彼が盲目なことを理解した。
私含めて友人と3人で行ったのだけど、それぞれ名前を教えてくれと言われ、〇〇は僕の肩につかまって、△△は○○の肩に。□□は△△の肩にと指示され、みんなで電車ごっこのように一列になって暗闇を進むらしい。
何重にも重なる分厚い暗幕をすぎるといきなり真っ暗。他の客の声や、食器のカチャカチャという音が聞こえホールに来たことがわかる。

テーブルにくると一人一人順番に名前を呼ばれて椅子を掴ませられ案内されるが友人2人は隣り合った席で、私は2人の向かいの席らしい。そしてこのテーブルすごく長い繋がった相席テーブルらしく、向かいに座るにはぐるっと回り込まなきゃいけないと言われ、また私とウェイターのお兄さんで電車ごっこして行く。どんどん友達の声が遠のくのがわかりすごく不安で心細くなった。
席に座るとフォークやナイフ、グラスの位置を教えてもらい、誰もあなたの手の動きも口周りも見えてないからマナーなんてない、気にせず自由に食べてくれと言われる。ここフレンチなのに。
それから何で知ってここに来たのか聞かれたからアバウトタイムを見て知ったんだよ!と言うと、面白い映画だよね、僕は見たことないけど。とお兄さんが言うのでしまった、、!と思った。
けれどお兄さんは、だいたいみんなその映画を見て来てくれるし、たくさん話を聞くうちにみんなより詳しくなったと思うよ、見たことないのに!wと笑いに変えてくれた。

ウェイターのお兄さんが去った後、まず友人の位置を確認し合うためにテーブルの真ん中に全員手を伸ばして触り合いそれぞれの距離感をつかんだ。
それからテーブルの真ん中に水のピッチャーがあり自分の空グラスに自分で注がなきゃいけない。大事なことだからもう一度書くけど目をつぶってる時以上に暗いような感覚。光が少しもない。どんなに物を目の前に近づけ目をかっ開いても少しも見えない。水がグラスにいっぱいになったかさえもわからないからしかたがないので自分のグラスに指を突っ込んだ状態で注ぐ。こんなことしても誰も気付いてない。水はフレーバーウォーターとかじゃないのに、何故か口に入れた瞬間味を感じた。水を美味しいと思った。

そして料理がきた。スターター→メイン→デザートで3回に分けて順番にくる。やはり料理の説明は一切なく、肉を頼んだ人ー?魚を頼んだ人ー?のような感じ。手探りでフォークを手に取った一口目。これが何かもわからないのに、口にした瞬間の鳥肌がすごかった。たぶん生まれて初めて食事で鳥肌がたった。普通に美味しかったけど鳥肌がたったのは美味しいからとかではなく、味覚という感覚にだ。見た目もわからないのに何故か普段の食事より味わってる感じがした。匂いに敏感になった。この時の感覚が忘れられない。
フォークで刺したりすくうだけのことが思った以上にできない。よそえたと思って口にはこんでも、よそえてなくて空振りってことが普通に起きる。メインの魚は切らないと食べれなかったけど切れてるのかもわからず途中からナイフを使うのをやめ、フォークと手を使って食べた。とんでもないマナーの悪さ、食べ方の汚さ。それでもやっぱり誰にもバレないのだ。

1,2時間はいたけど最後まで目が慣れることはなく、でも最初の不安はなくなりいつものように楽しく食事ができていた。気付いたら暗いことがあまり重要ではなくなっていた。
食事を終えてレセプションに戻ると今日食べたコースの答えあわせメニューを見せてもらえる。ずっとサーモンと思って食べてたものがスズキだったし、言われたら確かにと思うけどその時は名前も出てこなかったような食材が使われてたり。まさに正月の格付けチェック。なんていい加減な味覚なのか。

ウェイターのお兄さんがとにかくすごく、もちろん練習してると思うけど、私たちみたいにカチャカチャ音を立てることは一切なく、スムーズに開いた皿を下げ次の料理を持ってくる。途中トイレにも行ったけど(トイレも行きたいと声をかけ電車ごっこで連れてってもらい、出てくるまで待っててくれる。トイレは明るい。)迷いなく案内してくれた、どこかにぶつかることもない。何も見えないけれど声かけなどからも彼のよくできた接客をすごく感じた。ちなみにお兄さんめちゃめちゃイケボ。
ヘレンケラーが触覚や嗅覚が人よりずば抜けて優れていたようにお兄さんの接客はそういうものだったように思えた。

長くなってしまったけど書き足りないほど素晴らしい体験だったのでどうしても。機会があればぜひ訪れてほしいところ。パリにもあるそうです。日本にも和食verでできないかなあと思ったけど箸は難易度たかすぎて全部手掴みになりそう。。。
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