Foufou

ブラックフィッシュのFoufouのレビュー・感想・評価

ブラックフィッシュ(2013年製作の映画)
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千葉の鴨川シーワールドのシャチのショーを観て大いに感動したので、シャチについて色々と調べていたら本作がヒット、早速見てみました。

ちなみに日本でシャチのショーが観られるのは、先述の鴨川と名古屋港の二ヶ所のみ。

飼育下のシャチが原因とされる人の死亡事故の報告例は、意外にも四件と少ないのですね。ただ、危うく……という事例を含めれば何百件に上るという。いくつかの映像を見ると、明らかに人間(飼育員)をロックオンしてプールサイドに辿り着けないよう足を咥えて水中に引きずりこんだり、その上へジャンプして何度も覆い被さったりね、賢いとされる生き物だけに、他意がありそうで、やっぱり怖い。

四件の死亡事故のうち、なんと三件が同じティリクムという、カリフォルニアのシーワールドにいたオスのシャチが原因なんですね。飼育員たちをはじめ、シーワールドの役員や海洋学者や動物保護団体のスタッフやかつて密漁に手を染めていた者ら等々、インタビューは多岐に渡る。

見ていてやはり、胸を痛めます。だって誰もティリクムのことを「殺人オルカ」などと罵倒したりしないんですから。みんな涙を浮かべながら沈鬱な面持ちで証言する。故人を悼むのはもちろんだが、なんといっても根底に、シャチをビジネスにしてきた後ろめたさが透けて見える。それからシャチに対する圧倒的な敬意と畏怖、これがある。特に飼育員およびトレーナーたちは、シャチとの絆を無邪気に信じてその仕事を誇りにしてきただけに、真相を知った彼らの様子は見ていて心かき乱されます。だって彼らの大半が、幼いときにオルカショーを見て、感動したのがそもそもの始まりなんだから。トウが立った私でも、なんて可愛くて崇高な生き物なんだろうと、日がな一日眺めていたいくらいなんですもの。

水族館のオスのシャチの背鰭はやがて中折れしちゃうんですね。寿命も三、四十年。かたや野生の群れが時折映し出されるんですけど、背鰭はいずれも誇り高く水面から聳えている。オスの本来の寿命は七十年、メスは百まで生きるそう。子どもは生涯親から離れない。密猟者どもに追い込まれると、オスらは率先して囮になって、メスと子らを別ルートで逃すような賢さを示す。それを人間は飛行機やヘリで上空から追っていて、別れた母子のほうを一網打尽にするんだから、たまんないよ。ひどいよ。子どもが連れ去られるあいだね、ほかのシャチたちは密猟者の船のまわりを離れない。聞いたことのない悲壮な声をあげてシャチたちは鳴くそうです。

ティリクムはその後も殺処分を免れます。種オルカとして、稼ぎ頭になるんですな。最期は感染症だったそう。享年三十五歳。

シャチのショーには大満足で、また来ようねと言い合って家族の盆休みを締め括ったわけですが、本作を見てかなり複雑な思いにさせられました。芸を教え込まれたシャチが可哀想とはなるんですが、いっぽうでオルカショーを観たればこそ、こうして関心を掻き立てられて、人と動物の関係について考えさせられるわけですからね。昨日までシャチのことなんて考えもしなかった。

シャチはふつう人を襲わないとのこと。食性も親から子へとコロニーの文化として引き継がれるので、人間を獲物としてはそもそも認知しないんだとか。

シャチといつかお話ししてみたいですね。
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