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エンジェル・ダストの教授のレビュー・感想・評価

エンジェル・ダスト(1994年製作の映画)
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ジョナサン・デミ監督の「羊たちの沈黙」から派生した作品は洋邦問わず数え切れないくらいに誕生したが、邦画ではその最初期の作品だと思う。

この「ありがちな」ディティールを用いて「ヤバい映画を撮る」という気概が石井聰亙監督の後年の持ち味だと最近になってわかってきた気がする。

ストーリー的な部分や、登場人物の描き込みは、かなり杜撰とも言えるし、甘いとも言えるし、ステロタイプ過ぎる点が多い。
そのため「難解」というよりは語り口が上手くない映画ではある。

ただそこに「変な映画」である事の矜持のように豊川悦司が演じる主人公の夫トモオが物語の文脈に関係なく「両性具有」として描かれていたり、メフィストテレス的な全能感を誇示する阿久礼(若松武史)も現代的な視点で見ても「トキシック・マスキュリニティ」でもあるし、単に「頭の良いポンコツ野郎」としてしっかり描かれている点はさすが。
またそういった男性性に籠絡される「知性的」な女性の業のようなものを主人公の節子というキャラクターを通して南果歩がリアリティを持って演じている。というよりも、南果歩自体がそういう人なのではないかと思えるので「キャスティング勝ち」にも見える。

本作の公開後に「オウム真理教」事件が世間を騒がすのだが、その「先見性」の凄さに驚く。
ただそれ以上に、全身全霊でそういったオカルトやスピリチュアルなトピックに飛びつきながら、そのいかがわしさや、インチキさ、詰めの甘さが生み出す悲劇を描き出していることは興味深い。

その上で冴え渡っているのは、石井監督の「都市の持つ不穏な空気」の演出であり、経済的な豊かさの代償を払わされている当時の東京のヤバさを見事に切り取っている。
映画としては失敗作だとは思えるが、面白かった。
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