かなり悪いオヤジ

福福荘の福ちゃんのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

福福荘の福ちゃん(2014年製作の映画)
3.8
森三中の大島美幸をはじめからオッサン役であてがきにしたシナリオだという。本作は多分、首には手拭い、ドカジャン&ニッカポッカを五厘刈りの大島美幸に着せて笑いをとろうとしただけのコメディではないだろう。歩く時は内股というなかなか女らしいところ?がある大島を、塗装業を営むオッサンに見せるためにけっこう大変だったと語っていた藤田容介監督。なぜ同じ森三中の村上や黒沢ではなく大島美幸をわざわざ主役にキャスティングしたのだろう。

中高生時代に(本作の福ちゃんと同じく)凄絶なイジメを経験したことのある大島は同時に、イジメられているところを同級生が見て面白がってくれたことが快感になったという。お笑い芸人としての原点もまさにそこにあったのだろう。藤田監督は大島のそんなキャラクターに、周囲の人間を癒すヒーラーとしての才能を見出だしたのではないだろうか。福福荘の隣室に住む強迫性神経症男や、東大は出たけれど友人が一人もできずに大蛇と暮らしているボッチ男のお悩みを一瞬にして慰め癒してしまう福ちゃんこと福田辰男は、まさに“聖なるられっ子”だったわけである。

その福ちゃんのアパートを尋ね、いきなり「あなたの写真を撮らせて」とお願いする中高生時代の同級生千穂(水川あさみ)は、もしかしたら藤田監督のオルターエゴだったのかもしれない。写真を撮らせてくれたお礼に大好物のカレーライスを福ちゃんにゴッチしてあげた千穂。激辛カレーなのに水を出さない非常識な店主(古舘寛治)に向かって、福ちゃんがこんなクレームをつけるのだ。「うまい水を飲みたいからカレー食っているようなところあるよ、逆に」この水とカレー、実は映画のラストシーンにも登場するのである。

ゲロの中に神を見出だす者がアーティストと説くカメラマン、千穂が忘れていた過去を一瞬で見抜いた喫茶店のマダム(真行寺君枝)、激辛苦の先に至福が訪れると騙るカレー店主、苦悩から解放されるため四国四十八ヶ所を徒歩で巡った野々下君、そして目隠をしたまま見事なイラストを描きあげる福ちゃん.....本作にはどこか仏教にも通じるスピリチュアルな雰囲気が漂っているのである。泥の中に咲く蓮の花の例えのように、この世の悲しみを乗りこえてこそその泥に染まらず清らかな人生が送ることができる。そんなお釈迦様のありがたい教えを私は“水の中のカレーライス”に見たのだが、どうだろう。