風に立つライオン

謀議/コンスピラシー アウシュビッツの黒幕の風に立つライオンのレビュー・感想・評価

3.5
 2001年制作、フランク・ピアソン監督によるナチス・ドイツによるホロコーストが生まれる会議を描いた実話映画である。

 1942年の第二次世界大戦下、ベルリンの郊外の高級住宅地にあるヴァンゼー湖畔の大邸宅で開催された会議に15人のナチス・ドイツの高官が招集される。
 後に「ヴァンゼー会議」と呼ばれる史上稀にみる邪悪な会議である。
 議長役は最後に登場する悪名高い親衛隊長官ハインリヒ・ヒムラーの副官たる国家保安本部長官ラインハルト・ハイドリヒ(ケネス・ブラナー)である。
 会議の目的は「ユダヤ人問題の最終的解決」で要はユダヤ人の絶滅をいかにして行うかであった。
 この会議は目的の本質において戦時中の軍の戦略会議とは一線を画すと言っていい。人類の、人類による殲滅作戦でありホロコーストであって戦争ではない。
 ユダヤ人の殲滅ありきで召集されているが故に議論の中では幾ばくかの反対論も出るが全て持っていかれてしまう。国外移住の促進という穏健策から次第に→移送→強制収容→強制労働→計画的殺害→効率的殺害と何食わぬ顔で進められて行く過程はそれを物語っているし空恐ろしくもある。

 一部ドイツの知識人からはニュルンベルク裁判で検察側により偽造・改竄されたものだとの主張があるが、会議の実務を司った親衛隊中佐のアドルフ・アイヒマン(スタンリー・トゥッチ)が後にイスラエルの法廷でこの会議の実態を認めている。
 兎にも角にもアウシュビッツやダッハウなどの強制収容所の有り様がそれらを裏付けている。
 
 議論が白熱し盛り上がってくる点はユダヤ人とのハーフやクォーターなどの取り扱いをどうするか、大量に処理(殺害)する方法はどうしたらいいのかと言った点で人間の心の底に巣食う闇の恐ろしさを感じざるを得ない。
 だが恐らく純粋アーリア系人種のみならず全ての人間に普遍している闇なのかもしれない。

 密室劇では本が上質でないと飽きさせるがケネス・ブラナーの品格と威厳のある演技やスタンリー・トゥッチらの冷徹でクールな演技は見応えがあり飽きさせない。しかしながらやはり全員が英語というのはマイナスポイントか。

 白熱した議論の本質を鑑みるとこれはどんなホラー映画より震え上がる程の邪悪で悍ましい映画と言えるかもしれない。