似太郎

明治侠客伝 三代目襲名の似太郎のレビュー・感想・評価

明治侠客伝 三代目襲名(1965年製作の映画)
4.7
【時代は変わる】

数ある東映任侠映画の中でも傑出した名花🌺であり、山下耕作の『博奕打ち・総長賭博』と並ぶマスターピース。

掟人間と狭間人間の葛藤、義理と人情、愛憎、組織対個人といった、東映任侠映画の魅力がギッシリと詰まっている。極道一家の三代目を担う宿命を背負った菊池浅次郎を演じる鶴浩の男臭い魅力が全編に渡って噴出する。

封建制度が根強かった江戸時代から移行して、近代化への巨歩を踏み出した明治とい時代。その大きなうねりの中で、それぞれの道を模索する人々の蠢き。そんな人々の営みは、変容する時代の渦にひたすら吸収されていく。

そんな中で精一杯に人生を燃焼させた名もなき人々の生き様は、ぬるま湯的日常を送るわれわれに激しい「揺さぶり」と「活気」をもたらす。

共同脚本に盟友・鈴木則文が参加。元々は小沢茂弘が監督する予定だったが、小沢が「いま、東映で撮ってるようなやくざ映画、僕には撮れない」と言って加藤泰がその代替を務めることに。

加藤曰く「その渡世のたてまえに生きねばならぬ男と、その男への愛一筋に生きる女の物語。その恋の葛藤のドラマ」という、謂わば長谷川伸的な【男と女】の世界でころがすというコンセプトを考案。結果的に任侠映画史上に残る傑作が誕生した。

冒頭のお祭り→刺客による襲撃シーンから血で血を洗う壮絶な物語が始まり、加藤泰の十八番であるローアングル、フィックス、長回し、同時録音の流麗なる語り部に心の底から酩酊できる間違いなし。

明治という時代の荒波に翻弄される人々の、熱い生き様と命を削る戦いを一種の無常観で包み込んで描破した珠玉の一作。必見。🌺🍑
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