レインウォッチャー

ピーター・パン2/ネバーランドの秘密のレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.0
00年代前半、やっぱり例に漏れず作られていた『ピーター・パン』続編OVA。

大人になったウェンディの娘・ジェーンがネバーランドに連れて行かれる、という展開は、原典でも最終章で語られていたもの。あくまで結びの一節レベルだったそのパートに肉付けした作品で、物語自体は完全オリジナルといえる。

まず冒頭から語られる背景がかなりシリアスで、ロンドンは戦時中。ジェーンの父は兵役に行き、ジェーンは疎開を迫られる。
この設定は興味深くて、単に漠然と「大人になりたくなかった」前作とは違う、「早く大人にならざるを得なかった」というより複雑なテーマにタッチしている。だからこそ、今作のジェーンはピーター・パンたちを迎え入れるのではなく、フックによって強制的に連れ去られるのだろう。

ただ、そこからのストーリーとこのテーマは巧くマッチしている…とは言いづらい。
ネバーランドでの紆余曲折の果てにジェーンが「信じる」ことを取り戻す着地に対して、どうしても背景が重すぎて釣り合いがとれていないと感じてしまう。勿論それでも、辛く不安な状況(当時といえば9.11テロの直後だ)でこそ夢が必要というメッセージを子供や大人に届ける価値はあると思うけれど。

良かった点が二つ、ひとつはフック船長。前作に続いて悪役の「駒」の枠を出ない扱いであることに変わりはないながら、ところどころで原典を参照したような哀愁が感じられた。
ハープシコードを弾いたりするのはその一例(※1)だし、ピーターを一度倒したかと期待した瞬間、彼は「やったぞ!ついにピーターパンから解放された!」と言う。この「解放」の一語に、彼の切なさが垣間見える。

もうひとつはウェンディとピーターのラストシーン。
原典でも最後に再会シーンがあるけれど、大人になったウェンディを見て、それまで良くも悪くも全能感の塊のようであったピーターは初めてはっきりと恐怖に近い感情を覚える。少しホラー的とすら読めるシーンだ。
それに対して、今作の再会は淡い疼きを双方に残すようなシンプルで美しい場面になっていて、結果的にウェンディとピーターというキャラクターに救いを与えていたと思う。

作画やアクションはかなり前作のマナーに忠実、かつCGの助け等も借りて鮮やかにアップデートされていて、見どころはある。EDに流れる『Do You Belive in Magic?』、このあけすけな明るさこそが求められる時もあるだろう。

-----

※1:ここでフックが自身の母親の写真を見せるのだけれど、そのヴィジュアルには悔しくも噴き出してしまった。「くっそこんなので」案件。