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日本の悪霊のJeffreyのレビュー・感想・評価

日本の悪霊(1970年製作の映画)
3.0
「日本の悪霊」

冒頭、ヤクザの発祥の地群馬のある小都市。天地組と鬼頭組、暴力行為取締、幼稚園の開園祝賀会、県警本部からの派遣、古い伝統、入れ替わる二人、隠された事実。今、双生児的主人公二人の活動が描写される…本作は黒木和雄が一九七〇年にATGで監督した高橋和巳の同名小説を映画化したもので、DVD BOXを購入して、久々に再鑑賞したがザ・ギルド映画って感じで、風変わりな任侠映画である。本作は学生運動へ身を投じた過去を持つ警官とヤクザ、二人は敵対関係にありながらも何故か共感を覚えていく。主演の佐藤慶は警官とヤクザをコントラスト強く一人二役で好演していて、やくざの世界観から七〇年代に突入していく日本の世相を巧みに描いた一本で、当時学生の間でベストセラーとなったらしい…本が。

この作品はタイトルからしてドストエフスキーの味を踏まえているのだが、ヤクザと警察が同じ役者が演じているのを見ると、罪と罰を彷仏とさせるような事柄であり、それは論理的な追求でもあり、独特のベクトルがこの作品には垣間見れると感じる。アートシアターギルドの作品の中で一人二役に成功しているのは、私がATGの十本の指に入る篠田正浩の「心中天網島」で、ヒロインを演じた岩下志麻も忘れられないインパクトがある。この作品では主演の佐藤慶が一人二役をやろうとアイデアを発案したそうである。なかなか粋なことをする。この映画の面白いところは一人二役を踏まえて、ヤクザと刑事と言う全く違う対照的な人物を同一俳優が演じることによって、二人ご同じ精神的基盤に結合されて行く…いわば同一化と言う大胆な実験を見事に成功しているところである。思想犯と特攻崩れと言う全く違った人物を…。

だから、映画の冒頭で警察がヤクザに質問するときに布団の中に真っ裸で入っていて、パンツが見当たらないんですけどもと腑抜けたことを言う場面が大いに滑稽であった。同一人物のビジュアルによってバカバカしさが感じ取れたからである。そこをフォークシンガーの歌手が間に入ってイデオロギーの歌を歌って、それを延々とカメラが捉えるのもなんとも風変わりであった。無理矢理こじつければ任侠物版の「君の名は」である。やくざと刑事がそれぞれ入れ替わってしまいそこからしょぼくれてしまった刑事を見るのは痛々しかった。まさに男の体に女が乗り移った大林の傑作「転校生」がここで垣間見れた気分である。

さて、物語は、舞台は群馬県のある小都市。ここでは新興ヤクザの天地組と古参の鬼頭組とが争っており、形勢は天地組みに有利となっていた。代貸しの村瀬は鬼頭組の助っ人として街に帰ってきた。彼はかつて日共六全協をめぐる政治闘争の中で、山村工作員として地主を殺し、この土地から逃亡した過去を持っていた。一方、刑事の落合は、暴力行為取り締まりの任務を帯びて県警から派遣されてきた。村瀬と落合の二人は同一人物のようによく似ていたため、出迎えのヤクザが落合を村瀬と勘違いしてしまった。それ以後、二人の立場は入れ替わり、村瀬は刑事として、落合はヤクザとして生き始める。落合はそれまでになかった開放感を満喫して村瀬は立場を利用して、昔関わった事件を洗い直し、過去を清算しようとするのだった…。

本作は冒頭に、暗い中に歌が聞こえる。歌は"僕らは何かをし始めようと生きているふりをしたくないために"と岡林信康の歌が流れ路上が写し出される。カメラは前進していき路地を映す。続いて、燃え盛る炎が捉えられ、黒煙が立ち昇る。カットは変わり一人のスーツを着た男が道を歩いている。すると映像が流ながれ、男同士の会話が音として聞こえて男を引き続き捉えていく…と簡単に冒頭話すとこんな感じで、非常に風変わりな任侠映画(ドッペルゲンガー的な)である。岡林信康の思想が強烈に歌詞に込められてダジャレの歌を歌いますと言いながら子供たちをガキと呼びつけて周りに集めさせ笑へ、手を叩けと言いながら歌を歌う場面は強烈なインパクトがある。黒木和雄もアナーキスト、反体制派だったため色々と運動していたようだが、この岡林と言うフォークシンガーもそうなのであろう。俺はフォークシンガーと言えば吉田拓郎位しか聞いたことがない(男性では)。そのダジャレの内容の一つにこの国はなぜ汚職が多いのだろう、それは黄色人種だからと言うおったまげるようなダジャレで歌を歌っていた。おしょく=おおしょく、って具合に。

ラストの日本刀のショットは印象深いが、この作品はかなり苦手な人が多くいるはずだ。まずシナリオが非常に難解である。これは万人受けにしていないのは明らかで、まさにギルド映画と言えるし、黒木らしい作品である。正直よくわからない場面もある。例えばあの子供たちを集めて政治的に反対を言う歌を歌う場面やエレキギターの音が正直不必要に感じるのと、所々にセックスシーンを挟み込むのも謎である。いくつかの伏線のようには見えるものの、設定がいまいちわからないのと発想がとっぴすぎてなかなか理解しにくい。ともあれアートシアターギルドの中ではものすごく好きって言うわけではない。
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