浮浪者

シネマ歌舞伎 野田版 鼠小僧の浮浪者のレビュー・感想・評価

3.6
人の死を渇望する棺桶屋である凡人が、機転をはたらかせきったゆえに!、義賊として名高い鼠小僧の運命を背負わされてゆく。

徒花として、仮想の美しさのなかで散り満ちてゆく。

今宵の第九よろしく、これでもない、いや、あれでもない、という愚かなまでに執拗な拘りと、ざっくりな二元論で世界を掻き回しきる凡夫。

善悪という仮初めの棲家にいることを自覚させるだけなら人々は納得しない、自明すぎる!。 仮初めなど事のはじめから分かりきりながら、泣きつつ踊り、笑いつつ祈ることで都度都度しのいでいることを暴き立てることで幾分かが納得するのだ。

それでもまだ足りない、という性根の悪い、多数の悪魔や天使のために、前段の納得を徹底してぞんざにあしらうことによって、芸能の慈悲深さをそっとのぞかせようとする。

この作為性から湧き出てきた、そっとに味がある。あぁ、気づかぬまま過ぎゆきましたと、悲喜こもごもの歴史へ化かすことが叶ってしまうのだから。
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