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セデック・バレの真実のくりふのレビュー・感想・評価

セデック・バレの真実(2013年製作の映画)
4.0
【余命、とは生き残った者のこと】

『台湾巨匠傑作選』での上映にて。

まず『セデック・バレ』の登場人物…実在した彼らに思い入れがあれば必見でしょう。

次に、霧社事件に興味があれば、なかなか参考になります。ウェイ・ダーション監督自身が製作をつとめた、霧社事件の遺族・子孫への取材を中心に、事件とその後を追ったドキュメンタリー。並行してセデックのルーツを追う構成も興味深い。

原題は『余命』だそうですが、生き残った者を指す言葉だそうです。主に、モーナ頭目の娘マホン・モーナ(映画ではランディ・ウェンが演じた)、オビン・タダオ(同ビビアン・スー)、佐塚愛祐(同木村祐一)、についてのエピソードが心に残りました。

映画ではセデックを差別する記号的悪役だった佐塚氏が、セデックの奥さんと築いた家庭ではどうだったのか?という意外性。彼らの娘さんが日本に渡り歌手として成功した話なども驚きでした。

一方、あの運動会の虐殺を経て、仲間たちの集団自決からも外されたオビンさんの、その後の激動史にも胸が締めつけられました。霧社事件は、映画では一応終息した物語の後も、ずっと続いていたことがわかります。

全体、『セデック・バレ』同様、作り手の思い入れが強いせいか、少し饒舌な仕上がりでした。が、これは語り継ぐべき貴重な記録でしょう。

証言者の語りに時々ヒョッと、日本語が挟まれチクリと痛い。しかし日本が行った蛮行は語られても、映画として反日ではないと思います。おばあちゃんたちが今も、着物姿で日本舞踊に親しむ画などがちょっと眩しい。

本作もう一方の柱、祖父から聞いたセデックの伝説、始祖の男女を生んだ巨石プスクニを探して山に入る父子のエピソードは正直、ピンときませんでした。

が、かつて住んでいた山を追われ、故郷を喪失した彼らにとって、伝説を通じて大いなる里帰りをしたということ。その点からはとても共感できました。

あの台湾独特の霧に包まれる、緑の山がすごく静謐なんですよね。そのうち鹿の群れが現れるのですが、父子一行を警戒せず触れることもできる。これは皮肉に感じました。かつてセデックが暮らしていた頃は、狩人と獲物の関係だったのですから…。

その他得るもの多々でしたが、このへんで。本作、一般公開してほしいですね。広くみられるべき作品だと思います。

<2014.9.28記>
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