和桜

消えた声が、その名を呼ぶの和桜のレビュー・感想・評価

消えた声が、その名を呼ぶ(2014年製作の映画)
3.7
未だ公式の謝罪や賠償が示されないアルメニア人虐殺を、トルコ系ドイツ人であるファティ・アキン監督が取り上げ映画化。砂漠での強制労働や虐殺に始まり、中盤からは声を失いながらも奇跡的に生き残った男が何年もかけて娘たちを探す姿が描かれる。

主人公が言葉を語れないのがこの作品の突出した点で、語り得ぬものを語らずに映画として撮りきった姿勢がとにかく素晴らしい。本来、こうした物語に経験したことのない人間が言葉を与えるのは不可能なわけで、結果としてドラマ性は失われているものの、言葉を残せなかった被害者達を代弁するような虚言のない誠実さを感じた。

現在でも世界中に点在するアルメニア人コミュニティにとって、ここで描かれた迫害の歴史を共有することが同一性の確保にも繋がってる。これは虐殺や差別を受けてきた多くの民族と同じであり、映画として訴えるのがまだ難しいこの問題を、確かにもう少し切り込んで欲しかったと思いながらも、コミュニティを越えた世界中の人間に訴えたことは意義ある成果だと思う。
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