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ババドック 暗闇の魔物のMikiMickleのレビュー・感想・評価

ババドック 暗闇の魔物(2014年製作の映画)
4.0
監督は、これが初長編映画監督かつ脚本となる、ジェニファー・ケント。
オーストラリア映画

夫を6年前に亡くしたシングルマザーのアメリア。
6歳の息子サミュエルは問題児で、手をやくアメリアは日々疲労困憊しており、疲れ果てている。
ある日、サミュエルが部屋で見つけた、見た事もない一冊の本。
「ババドック」という不気味な怪物が出てくるその本には、「本当の姿を知ったものは、死を欲してやまなくなる…」と。
それをおやすみ前に読んだことで、サミュエルは異常な恐怖にとりつかれていく。
何もないところを恐がり、夜も眠れない。
最初は相手にしていなかったアメリアだったが、そのババドックの手はアメリアにも…


まず、前半。
ADHDっぽい障害を抱える息子サミュエルを、ひとりで養うアメリア。小学校低学年の母親にしては老けています。彼女をそうさせたであろう日々の苦悩が、スピーディーに、飽きさせることなく、むしろ目を離す事ができない位、じっとりと執拗に表現されています。

息子への愛と、理解できない辛さと、疲れと、鬱憤、ストレス。
学校にも、妹にも理解してもらえない孤独と絶望。
夫を悲惨な事故で亡くし、サミュエルへの感情も複雑なもの。
警察へ訴えても、冷笑され……

サミュエルがババドックを恐がるようになってからは、不眠が続き、どんどんと朦朧してきます。
精神的にまともではない状況に追い詰められていくのです。

そして、後半。
ドアをノックする音。姿を見せるババドック…
ババドックはアメリアにも恐怖を与えていきます。

朦朧とした意識の中、サミュエルに対して暴言をはき、恐ろしくなっていくアメリア…
謎の幻覚…
それは現実なのか、妄想なのか…
だんだんと狂気に侵されていくアメリア…



このアメリア役のエシー・デイヴィス、ほんと、素晴らしいです‼
苦悩と疲れと酩酊と恐怖、及び、すっごく怖い‼ ほんと、すごく怖い‼彼女に飲み込まれます。
シッチェス国際映画で最優秀女優賞を得ました。この映画は審査員特別賞も受賞。

サミュエル役のノア・ワイズマン君。やついいちろうを可愛くしたみたいな顔をしていますw

精神的な障害があるんだろうなって思って見ていたので、最初から彼に感情移入していました。手におえない難しい子だけど。
それでも、母への愛を感じ、やついいちろうに似ているけどw、とても可愛いです。

ババドックの描写もとても上手です。
安っぽくない。絵本から出てきたような雰囲気もきちんとあります。姿はほとんど見えない。でも、怖い。

映像も、ピントのズレや早回しやスローモーションを使い、全体的な不安感がよくでています。

アートワークも良いです。仕掛け絵本はエドワード・ゴーリーのような不気味な世界で、不眠のアメリアの見ているテレビも怪しげなモノクロ映像だったりして、不思議な世界を醸し出しています。

また、部屋のほとんどがグレーで統一されており、不安感が非常にでています。アメリアの薄いピンクの服と、本やクッションなどの深い暗い赤が際立ち、まだそれもなんだか不気味。

監督が女性という事もあり、女性目線でのアメリアの心理描写が丁寧でした。
例えば、痴呆症患者をみる看護師として働いているのも、なんとなく人とのコミュニケーションがとれないし、他のお母さんたちへの苛立ちなど、細かくアメリアのストレスをだしています。ねちっこく。

と、分析を書いてみたけど、それを考えずにかなり引き込まれる作品です。
ジャケをみると絶叫系ホラーに見えるけど、スタイリッシュで洗練されたホラーであり、
むしろ、これは人間のドラマです。
障害を抱えたシングルマザー。その心の痛みと苦悩。そして、闇…

ババドックとは何者なのか…
それは誰しもに訪れる闇なのです…

全てにいっぱいいっぱいになり、精神的におかしくなる事、あるよね。
私はあった。
そんな時に訪れる闇。
それを描いた作品。
幻想と現実。
錯覚と願望。
苛立ちと憎悪と愛。
光と闇。

この闇を出せるのは、ホラーという媒体があるからなんだと思いました。
ラストで考えさせられます。
MikiMickle

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