荒野の狼

エフィー・グレイ(原題)の荒野の狼のレビュー・感想・評価

エフィー・グレイ(原題)(2014年製作の映画)
4.0
本作のタイトル「Effie Gray」は思想家・画家であるジョン・ラスキンの妻エフィ・グレイの名前。グレイが後にラスキンの弟子である画家ジョン・エヴァレット・ミレーと親密になったスキャンダルは有名で、劇・テレビシリーズなどになっているが、本作は結婚から家族と同居してからの事件を女優エマ・トンプソンが脚本を書き映画化した。
2019年に東京、久留米、大阪で「ラファエル前派の軌跡展」が開催されたが、この展覧会はラスキンの作品などを紹介しながら、彼を理論上の指導者・サポーターとして、ミレー、ロセッティ、モリスらラファエル前派の作品を紹介するものであった。同展覧会で印象的な絵のひとつに、ミレーがスコットランドにラスキン夫妻と旅行した時に、川岸にグレイが座っているのを控えめに描いたものがあるが、本作では、この三人が同地で絵画制作をするくだりがあり、このシーンは絵画の世界を再現したような美しい風景が素晴らしく、これだけでも絵画の世界に浸れるものとなっている。ミレーの絵のファンにはお勧め。
日本ではラファエル前派関係の映像作品が入手困難であるので、本DVDは高く評価したい。製造はドイツなのでパッケージはドイツ語。原語は、英語の他、数か国語が選択可能で、字幕も同様に数か国語が選択できるが、日本語はない。英語の字幕は読みやすく、英語もそれほど難解ではない。ワイドスクリーンであるので大きなモニターが適している。それでも、多少縦方向に潰れているような印象を受ける映像だが、見ているうちに、こちらは気にならなくなる。DVDの仕様はPAL2となっているので、DVD機器は日本のものであると再生不能なので、リージョンフリーのDVD機器などが視聴には必要になる。
本作で紹介される絵はミレーのものが殆どであり、最も頻繁に登場するのが、シェイクスピア・ハムレットのオフィーリアを描いたものである。映画では、このモデルがグレイであるかのような印象を与えているが、実際のモデルはエリザベス・シダルでロセッティの妻。これというのもグレイを演じたダコタ・ファニングが絵画のオフィーリアの雰囲気にそっくりであることも一因。ファニングは夫婦関係のない異常な新婚生活や閉塞的な家庭環境に悩む主人公を好演。扱っている題材は暗いのだが、108分の映画を見ている間も、鑑賞後の印象もよいのは、視聴者が自然に主人公の性格などに同情的になり応援したくなるようなファニングの容姿と演技による。本DVDの特別付録に衣装のルース・マイヤーズのインタビューがあるが、マイヤーズは「ファニングはグレイを演じるために生まれてきたようだ」と語っている。本DVDにはファニングのインタビューも特別付録として収録されている。
本DVDの特別付録には、トンプソンのインタビューも収録されている。トンプソンは映画ではグレイを精神的に支えるエリザベス・イーストレークを演じているが登場場面は少ない。インタビューからはトンプソンが制作におおきく関わっていたことがわかる。トンプソンは、ラスキンの心理は描けなかったが、ラスキンも苦しんだはずであり、それとなく伝えようとしたと語っている。確かに、映画でラスキンは、1)冒頭から家にターナーの絵が掲げられてこれが賞賛されたり、2)ミレーをはじめとするラファエル前派の作品を擁護したり、3)ベニスでは、妻に芸術作品のあり方、ベニスの芸術の堕落などを説明したりと、プラスの部分も描かれてはいる。しかし、おおむね、年取った両親に世話をやかれて、妻とは夫婦生活をせず、使用人にも冷たい待遇をする奇人として描かれている。ラスキンは、非常に高い精神性の持ち主かつ芸術界を理論的に牽引するリーダーで、ミレーを含むラスキンの弟子たちが多数育ったという功績があるだけに、本作の描かれ方はネガティブな側面ばかりが印象に残ってしまい残念ではある。
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