みきお

セッションのみきおのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
5.0
映画『セッション』は、「ラ・ラ・ランド」でお馴染みデイミアン・チャゼルが監督と脚本を務め、彼の名前を世に広めさせた出世作です。
19歳の若きドラマー、マイルズ・テラー演じるアンドリュー・ニーマンは、一流のジャズドラマーを目指して、名門音楽大学に入学し、そこでジャズアンサンブルに招待されます。
しかし、そのアンサンブルを指導するJKシモンズ演じるテレンス・フレッチャー教授は、生徒に対して極端に厳しく、時には虐待的な指導方法で知られているやべぇやつでした
フレッチャーの指導は、アンドリューを精神的、肉体的に追い詰めていきますが、アンドリューは偉大なミュージシャンになるためにはその指導が必要だと信じ、狂気的な情熱と努力で対抗していくという感じの作品です。

見終わった感想としては何もかも完璧な音楽映画の最終形って感じの印象でした。
尺、音楽、俳優陣の演技、脚本、照明、編集。
すべてがいい感じに噛み合っていて、ずっと鳥肌立ちまくり、興奮しまくり余韻ありまくり
5点満点中5点。
自分に刺さりまくった大傑作です。
では、どこが自分に刺さったのか、どんな所がこの映画の大好きなポイントなのか。
ネタバレありで大々的にわけて話していきたいと思います。

まずは演技について
この映画を語る上でやっぱり外せないのが今回で助演を務めたJKシモンズの演技ですよね
JKシモンズの演技の優れた点は、彼が演じる音楽教師、テレンス・フレッチャーの強烈なカリスマ性と支配力を見事に表現していることです。
例えば、彼が主人公であるアンドリューに対して厳しい指導を行うシーンでは、
緩急のある表情から緊張感と圧倒的な存在感が伝わっていき、罵倒、罵声、暴力、暴言全てを行使して、人格否定をし、アンドリューのメンタルをどん底に落としていきます。
そこのシーンにはフレッチャーというキャラクターの内面の難解さや複雑さ、音楽への情熱、完璧主義であるがゆえの思想や考え方、心理が見事に表現されていました。
彼の美学、価値観も狂ってはいますが、何故か共感できてしまいます。
彼の演技力、表現があったからこそ、JKシモンズの熱演があったからこそ、フレッチャーというキャラクターが強烈に印象づけられ、観客の記憶に刻まれる存在となりました。
視聴者の皆さんも彼以外のフレッチャーを考えてみてもあまり、思い浮かばないと思います。
それはJKシモンズの演技が素晴らしく、奥行があり、魅力的だったからだと思います。

アンドリュー・ニーマンを演じた、マイルズテラーの演技も最高でした。
彼の演じるキャラクターは最初はあまり表立って自分の音楽を表現するような人物ではありませんでしたが、内には音楽の情熱があり、音楽で成功する夢がありました。
しかし、フレッチャーによってどんどん野心的で、音楽で成功するにはどんな犠牲も厭わない強い意志を持つエゴイストになっていきました。
フレッチャーの過酷な指導や非情な言葉によって苦悩し、挫折に直面する姿が描かれる中で、アンドリューは内面の葛藤に苦しみながら、その過程で彼の精神的な強さや成長が見られます。
テラーはアンドリューの複雑な心情を繊細に表現し、彼の内面の変化をリアルかつ感情豊かに描写しています。
具体的なシーンを上げてテラーの演技の何がいいかを語りたいと思います。
最初の練習のシーンでフレッチャーに罵倒されながら同じリズムを繰り返す。
どんどん自分の中で何をやっているのか分からなくなり、演奏が下手になっていきます。
問い詰められすぎて手が震え、表情が固くなり、混乱と焦りが生じます。
あそこの表情と声の震え、動き、全てがリアルで現実的な演技になっていました。
そこからどんどん欲張りになり、傲慢になっていく様も見事に表現されていました。
JKシモンズの演技に持ってかれがちですが、彼の演技力も1級品です。

次は照明ですね
緑であったり、黄色であったり、青であったり、劇中には色々な照明が使われています。
今回は黄色の照明を主軸で話していきたいと思います。
ほとんどの演奏シーンは黄色の照明が使われてます。
黄色という色は、脳を刺激し、集中力、思考力、アイディア、ひらめきをもたらす色であり、知性や集中力、判断力を促進する効果があります。
そのため、集中力や判断力が求められる演奏の場、トランペットなどの金管楽器の配色とも、楽器との相性も抜群ですし、最適な色だと言えます。
また、黄色という色は視認性もいい為、この映画を見ている視聴者側からしてもその場の雰囲気、キャラクターの心情をより引き立てる効果もありますね。

まぁ日常的にも、演奏会や舞台などに行くと、黄色の配色がよく使われていたりします。
本番を彩る色ですし、視認性もいいですからね。
劇中、アンドリューやそのバンドの練習中にも関わらず、本番のような色彩(黄色)で演奏されるシーンも多くありました。
練習中でたくさん黄色が使用される理由は、先程話したように演奏への集中力のupであったり、視認性の良さであったりメタ的な意見が該当しますがやっぱり自分は、フレッチャーの考え方と合致している部分があるためだと考えています。
フレッチャーの考え方としては常に100点満点を求めています。
それにそぐわない場合は罵倒、罵声を生徒に浴びせる始末....

フレッチャーの指導は練習ではなく、常に本番と同じように100点満点を目指せという考え方をしているのが黄色の照明が象徴しているんじゃないかなぁと感じます。
この視点から見ると、黄色の照明は単なる演出技術以上の意味を持ちます。それは、練習と本番の境界を曖昧にし、いつでも最高のパフォーマンスを観客に提供するよう求めるフレッチャーの厳格さと情熱を反映しているかもしれませんね。

この映画では、劇中を通してさまざまなジャズ曲が登場し、それぞれが独自の魅力を持っています。
例えば、「Whiplash」ではアップテンポでダイナミックな演奏が繰り広げられ、「Caravan」では高度なドラムテクニックを主体にベースや金管楽器、ピアノが絡み合い、複雑ながらもキャッチーなメロディが魅力的に表現されます。そして、「Overture」では、背景で流れる音楽が物語を盛り上げる役割を果たします。
その他にもFletcher's Song in ClubだったりIntoitだったり作品に華を添えてくれる美しい音楽も数多く登場します。
既存の曲をスタイリッシュに尚且つかっこよく編曲されていて、その違いを楽しむのも最高でした。
映画の中で練習シーンを見ているわけなので「ここ手こずってた所だ!」だったり、「ここめっちゃいい!」と曲に対してももっと思い入れが強くなるような構成になっていてより、セッションの劇中で登場する曲が好きになっていきましたね。
キャラクターの背景で繰り広げられるサウンドも最高で、アンドリューがどんどん傲慢でひとりよがりになってき、感情もイライラしていくと、後ろも音楽もそれと比例して、どんどん激しく、大きな音になっていきます。
情景と音楽がマッチしている枠な演出になっていました。

やっぱりセッションの音楽、演奏を語る上で外せないのが、セッションの伝説的なラストシーンと言われているニーマンが劇中歌「Caravan」を強制的に演奏へ持っていき、4分間のソロをして、幕を閉じるというラスト

アンドリューとフレッチャーの2人だけの空間になり、4分間のドラムソロが繰り広げられます。
言葉がなくても、その演奏、その表情から彼らの思いや強い感情が伝わってきます。過酷なパワハラや苦痛を経験したアンドリューが、この場面での息の合った演奏をする様子は、師弟関係が成立していることを示していることを意味しています。
師弟関係が成立する中で、彼らは互いに似たもの同士となり、この時間、この一瞬の時というのはいがみ合い、恨みあっている2人ではなく、ただ演奏を心から楽しむようになっていました。
血の付いたドラムと、彼らの表情。
狂気、熱量、魂がぶつかり合う姿、がむしゃらにドラムを打ち込むアンドリューの姿と、それを指揮するフレッチャーの姿にただただ圧巻されていました。
ここまでバイブス、高揚感を上げて終わる映画はなかなかないと思います。
ここを魅せたい!ここを観客に見て欲しいという監督の熱いメッセージ性が強く現れていると感じました。
最後の最後まで釘付けになる、怒涛のラストだと思います。
最後、謎を残したまま、終わりを迎えるのも大好きで、人それぞれ「あれはハッピーエンドだ」「いやバッドエンドだ」だったりの論争が繰り広げられています。
ラストのシーンについては人それぞれ意見はありますが、個人的にはドストレートなハッピーエンドだと感じています。
ラストの演奏が強烈なインパクト、鳥肌、熱い気持ちを与え、アンドリュー、フレッチャーと一体となって演奏を体験する瞬間は本当に最高です。
今まで分かり合えなかった音楽が、分かり合えた瞬間というものは、以前の度が過ぎたパワハラや暴力、それを忘れさせるくらい、どこか嬉しいような気持ちを抱かせてくれます。
やっと認められたんだ、やっと上手くなったんだという、アンドリューの直接的な心情が読み取れて、すこし感動すら覚えてしまいます。
フレッチャーもそれと同時に「やっと分かり合える相手が出来た」というただ、音楽を楽しんでいる様子も演奏中の表情から受け取れます。
狂気と狂気がぶつかり合い、アンドリューが一流ドラマーとして成長していく過程は、同じマインドや思いを共有しているかのように感じ、とても胸が高鳴ります。演奏の迫力が、映画鑑賞を超えた体験として共有されることが、その映画の魅力の一部と言えるでしょう。

((ここからは妄想になるんですが、最後の口パクでフレッチャーが言ったセリフはGood Jobだと思っています。
フレッチャーの中で禁忌にしてる言Good job
その言葉を言った瞬間にジャズはタヒぬ。
そんな事を言っていたフレッチャーが、最後にGood jobということで初めてアンドリューが一流のドラマーとして、一人前のジャズプレイヤーとして認めた証になる。
これが本当だったら直接的な表現を避けたエモーショナルな演出でグッとくるなぁと勝手に想像してます笑)))
このようにあげるとキリがないくらい大好きなポイントが沢山ある映画です。
このレビューを見てもっとこの映画が好きになって貰えると本当に嬉しいです。
みきお

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