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ブリッジ・オブ・スパイのfujisanのレビュー・感想・評価

ブリッジ・オブ・スパイ(2015年製作の映画)
3.7
素晴らしい完成度の作品でした。

監督スティーブン・スピルバーグ、脚本コーエン兄弟、主演にトム・ハンクスっていう、失敗するわけないやん、な作品。

観る側の高いハードルを軽々と超えてくる、ハイレベルな作品でした。

実話ベースで、米ソ冷戦下でスパイ交換を交渉したアメリカの民間弁護士ジェームス・ドノヴァン(トム・ハンクス)の物語

捕虜交換はそれこそ今もウクライナとロシア間で実施されていますが、1人対1人の同数交換が基本のなか、1人のスパイを2人のアメリカ人と交換させたところが見せ所です。

以下、気になったシーンや感想などを書いていきます。


■ ドノヴァンの人物像

ドノヴァンはアメリカ人の弁護士ですが、ソ連のスパイであるアベルを誠実に弁護します。

そして、冷戦下(戦時下)であればこそ、憲法の原理原則を守るべきだ、と強固に主張します。つまり「戦時下なんだから、なんでもあり」を許してはいけないと。

おそらく、この映画でスピルバーグが最も伝えたかったことではこれなのでしょう。緊急事態であればこそ感情に流されず、冷静に、原理原則を忘れないこと。

迫害を受けたユダヤ系であるスピルバーグが多くの映画でこだわっている視点がここにもあると思いました。


■ 演出:ドイツ語部分の字幕がない

冷戦下の東ドイツでは、アメリカ人のドノヴァンはいつ逮捕されてもおかしくない状態。

その恐怖を演出するためか、劇中でドイツ人同士が会話するシーンに字幕が入りません。

つまり、すぐ横で何を言われているのかわからないドノヴァンの恐怖を、映画を観ているこちらも共有することになります。

テーマにも関わらず暴力シーンの少ない映画ですが、映画ならではの恐怖演出は流石だなと思いました。


■ 美術・俳優:終盤の橋のシーン

タイトルにもある「ブリッジ」は東西ドイツの間にあるグリーニッケ橋を指し、当時多くのスパイや捕虜の交換が行われた場所とのこと。

映画でも終盤に劇的なスパイ交換のシーンが描かれるのですが、トム・ハンクスやソ連スパイを演じたマーク・ライランスの素晴らしい演技と照明などの美術が合わさり、素晴らしいシーンとなっていました。これだけでも観た甲斐がありました。

ちなみに、メイキング映像によると実際このシーンは最後に撮ったようで、撮影シーンそのものも感動的な映像になっていました。


■ 脚本・演出:冷戦の描き方

DVDの解説映像によると、冷戦下の東ベルリンのロケ地探しは難航したらしく、最終的にはポーランドで撮影したようです。第二次大戦で徹底的に破壊されたポーランドには、修復しきれない場所がまだあるのだとか。

また、冷戦の象徴であるベルリンの壁をめぐるシーンとして、ドノヴァンが列車の車窓から見る「壁」のシーンが二度出てきます。

一回目は、ベルリンの壁を越えようとする市民が無惨に銃殺されるシーン、そして二回目は帰国後のアメリカで、子どもたちが塀を乗り越えて無邪気に遊ぶシーンとして。

この、違いを際立たせる演出はトム・ハンクスのアイデアをスピルバーグが採用したようですね。

ベルリンの壁が一日で築かれてしまったシーンも、臨場感のある不気味映像でした。


■ U-2偵察機

ソ連に捕らえられていたスパイはフランシス・ゲーリー・パワーズ。高度2万メートル以上を飛ぶU-2偵察機を撃墜され、ソ連内で捕らえられ勾留されていました。

劇中では語られませんが、メイキング映像のU-2関連の情報が興味深かったです。

撃墜されたU-2偵察機はソ連内で確保され、アメリカの謀略を示すものとして展示されたようですが、この場所に当時GEのエンジニアだったスピルバーグの父が訪れたことがあるそうです。

ソ連側の人間にパスポートチェックされた上、展示現場で酷い対応を受けたという父の話は同時のスピルバーグの心に残り、この映画を撮るきっかけにもなったそうです。

このあたり、映画「フェイブルマンズ」にも通じるようなところがあり、大変興味深かったです。

(ちなみに、フェイブルマンズは観てはいるのですが、なかなか自分の中でまとめきれずに居ます・・😅)


■ 「クーリエ:最高機密の運び屋」との比較

冷戦下の同時期、同様に米ソ間のスパイの橋渡しをした民間人を描いた映画に、ベネディクト・カンバーバッチ主演の映画「クーリエ」があります。

こちらも素晴らしい作品でしたが、「ブリッジ・オブ・スパイ」の方がライトでドラマチックな映画(映画っぽい映画)の印象。

クーリエが戦争の悲惨さ(陰)、こちらが陽という感じでしょうか。


ということで、今振り返っても、減点要素が無い、ハイレベルな映画を観させていただきました。さすが。




以下は完全に余談です。

・この映画を撮影した時、アベルを演じたマーク・ライランスはなんと54歳。どう見てもおじいちゃんな感じでしたが・・・さらに言うと、トム・ハンクスは当時58歳で、トム・ハンクスの方が歳上😮


・U-2偵察機が登場する格納庫のシーンに、捕らえられたパワーズの実の息子さんが出演されています(メイキングにはインタビューあり)


・「黒いジェット機事件」… U-2偵察機は過去、日本にも不時着したことがあるそうです。当時超極秘であったことから、日本でこれを見た人は誓約書を書かされ、米側から家宅捜査を受けた人もいるそう。このあたり、是非何かで取り上げてほしい


・ドノヴァンの謎 … 映画では保険会社の弁護士として登場するが、ウィキペディアによると元々政府側の弁護士であったように見える(保険会社で勤めていた記述はない)


・ドノヴァンのその後 … 今作で取り上げられたスパイ交換の実績が認められ、その後ケネディ政権下でキューバ政権との1113人の捕虜解放交渉を成功させている(ぜひこちらも映画化をお願いしたい)


参考:
黒いジェット機事件 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%92%E3%81%84%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%88%E6%A9%9F%E4%BA%8B%E4%BB%B6?utm_source=pocket_saves


おわり!





2023年 Mark!した映画:99本

4以上を付けたのは12本

4.2 スリー・ビルボード
4.2 インビジブル・ゲスト
4.1 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
4.1 ブレードランナー 2049
4.1 NOPE/ノープ
4.0 ザ・コンサルタント
4.0 サイド・エフェクト
4.0 ヘルドッグス(邦画)
4.0 ブラッド・ダイヤモンド
4.0 灼熱の魂
4.0 ANNA/アナ
4.0 ある男(邦画)
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