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玄海灘は知っているのhorahukiのレビュー・感想・評価

玄海灘は知っている(1961年製作の映画)
3.6
人間性とは何か?

『下女』のキムギヨン傑作選BOX②。1944年。日本軍に徴兵された朝鮮人学生アロウンが、「日本軍50年の伝統」の名の下に数々の暴行・屈辱を味わわされる。その一方で、日本人女性と恋に落ち、国のために死ぬのではなく「生きる」ために、とある決断をする戦争メロドラマ。

アロウンに磨かせた靴の裏に「まだウ◯コが残っとる!」とブチギレて、ペロペロと舐めさせるだけで終わらず、こべりついたクソを飲み込ませるという鬼畜の所業を見せつけるクソ上司の森さんがとにかく胸糞。というか何で靴にウ◯コ付いてんの?😅「日本軍50年の伝統」ぱねぇ!!

この「日本軍50年の伝統」は、暴力と屈辱で個人の意志を打ち砕き、個性を奪い、人間を均一化された奴隷兵士にするための行為。当然コレを悪と描きつつも、その執行者である森さんを絶対悪として君臨させるのでは無く、彼もまた「伝統」の名の下に恐怖を植え付けられてきたことが暗に示される。

自身の弱さの裏返しとして、恐怖に飲まれまいと足掻くかつての新兵の行き着く先の姿としての森さんもまた、戦争の被害者のひとりでしかなく、徹底的な反日映画のようなスタートを見せつつも、日本人にもそのような奥行きのある人間性を持たせ、国籍のレッテルを排した「人間」そのものを訴えかける本作は当時の政権による緩和があったから製作できたものらしい。

日本人の中にも軍国主義に反発・抵抗している者もいて、そいつの紹介でアロウンは日本人女性、秀子と出会う。秀子は朝鮮人を「泥棒しかしない」と最初は軽蔑していたのだけど、次第にラブになり、2人で「国籍」と「戦争」の壁に立ち向かい、全てから解き放たれた一組の男女として「生きる」ために、そして戦争の恐怖に対抗するための精神性の獲得のために足掻く姿が主題となる。

原作が韓国版『人間の條件』って言われてるらしい。私は『人間の條件』見てないから比べられないのだけど、非人道的な世界の中で「人間性とは何か?」を問うのが本作だから、タイトル的にも何かそんな感じな気がする😂

面白いのは誰も日本語を話さないところ。そのおかげで誰が韓国人で誰が日本人なのか混乱しまくりなんだけど、少なからず「国境の壁を破壊する」趣旨を持つ本作では、この「誰がどこの国の人かわからない」=「本質的違いなど存在しない」点を強調するために一役買っていると、超好意的に捉えれば読み取れなくもないため、きっとそういうことなんでしょう。
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