パワードケムラー

THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦のパワードケムラーのレビュー・感想・評価

4.5
『幻の戦争』

『幻のクーデター』

そして『幻の時限爆弾』

 灰色の幽霊が放った一発のミサイルがそのすべてを露わにしていく。陸上自衛隊から盗まれたた最新鋭戦闘ヘリ・AH-88J2改 グレイゴースト。文字通り姿の見えない敵によって再び起こされた『幻の戦争』は、複雑に入り組んだ社会や警察組織、そして先代の守ろうとした『虚構の平和』を打ち砕こうとする。

 バビロン計画を始め、未完成な街に未完成な技術であるレイバーが全盛だった以前とは異なり、今回は98式AV イングラムをまともに動かすことすら難儀な状況に加え、今回の相手は思想と信念による憂国の想いを抱いた柘植行人ではなく、一切の思想も信念も持たない正体不明の存在・灰原零。異質過ぎる状況に『栄光の初代』からは遠く離れた『無能の三代目』はどう戦うのか。

 押井守監督が海外ドラマを研究したことにより生まれた「初期投資を惜しむな」という思想によりイングラムだけではなく、グレイゴーストも実物大のプロットが作られている。それ以外にも様々な小道具やセットが一から作られ、それを中心に物語を展開し、移動場面を挟むことであたかも本当にその場所で撮影しているかのような錯覚を与えるという海外ドラマらしい手法がとられている。

 また、公安の高畑の冷徹な部分やその言葉、メンツにばかりこだわり本質を失う官僚たちの姿などからも、前作以上に日本政府、いや日本国民そのものへの失望が感じ取れる。それだけではなく、特徴的だった「鳥」に関する演出もしっかりと組み込まれている。人間が本能的に飛行するものへ抱くを恐怖を、灰原零の正体不明で不敵な存在という設定がより一層高めているように思える。

 いかにして彼らを守る理由を今の特車二課の面々は見出すのか。彼らが見つけ出した希望とは何か。

 押井守監督は「ドラマシリーズで予算を使い切ってしまった」というが、後半のグレイゴーストの活躍場面やイングラムとの戦いは東北新社及びオムニバス・ジャパンの実力が全開のハリウッド顔負けの映像だと思う。このテイストで是非とも『THE NEXT GENERATION パトレイバー 廃棄物13号』も作って欲しいところだが、大田原勇を演じた堀本能礼氏が亡くなったことからそれは難しいのが悲しい。