秀ポン

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲の秀ポンのレビュー・感想・評価

3.5
同監督の「ジュピターズ・ムーン」が、つまらないのにやけに印象に残っていたので、これも観てみた。これでコーネルムンドルッツォと決着をつけようという魂胆だった。(何の?)

これもつまらなかった。
だけど、犬が街を占拠するシーンはかなり面白かった。ハーメルンの笛吹きみたいだと思った。こっちはネズミじゃなくて犬だけれど。

解体される牛を映したファーストカットからも分かる通り、この映画の持っている問題意識は、物言わぬ他者に対して人間がする酷い仕打ちだろう。そして、それに対しての救いとして犬達の復讐というファンタジー要素を付け加えている。
厳しい社会問題と、それに対する救いとしてのファンタジー要素というのは、後の「ジュピターズ・ムーン」にも共通する構造だ(難民問題と飛ぶ少年)。
これがこの監督の作家性なんだろうなというのは何となくわかった。
そしてこの2作は、ラストシーンでの救いが、実のところ全く機能していないという点でも共通していた。

犬達と主人公達が同様に地に伏せるラストシーンは、なんか感動的な雰囲気になってたけど、犬たちが沈静化した=滞りなく殺処分されるということで、かなり切ない終わり方ではある。
この終わり方を観た上でジュピターズムーンの終わり方を思い出すと、結局何も解決していないのに神秘的な雰囲気だけで押し通そうとするあの終わり方のしょうもなさは、意図的なものだったんじゃないかという気もしてくる。(しょうもなさではなく無常感だった可能性が出てきている)
しかし、普通に演出をミスってるがゆえのしょうもなさも散見されて、どこまでが意図的なもので、どこからが下手さ故のものなのか判断に困る。

良かったのは、犬の映し方。
凡百の動物映画みたいに犬達のアテレコをしたりはしないぞ!という強い決意が見えた。この映画ではその判断は大正解だったと思う。
それなのに、セリフゼロの、犬だけのパートであっても何となくドラマが伝わってくるのはすごい。

結局この映画も「ジュピターズ・ムーン」同様につまらなかったんだけど、「ジュピターズ・ムーン」同様、観た後に奇妙な印象が残って、まだ監督との決着はついてない感じがした。(何の?)
またこの監督の映画を見ることになって、また似たような感想を抱くことになるんだろうなという予感がある。

──その他、細かい感想。

・意地悪な肉屋の店主として監督自身が出演していたけど、彼が画面に出ることによって変な読み取りが可能になっていた。
画面の中の彼は、犬を物のように扱った報復として彼らに食い殺されることになる。これによって「犬は人間に一方的に支配される存在じゃねーんだぞ!」ということを観客に知らしめる訳だけど、監督としての彼はちゃんと犬を制御しきってこの映画を撮っている訳で、そこはかとない自家撞着を感じる。
これは別に、だから悪いとかいうわけではない。
(この自家撞着は、乱雑な現実の素晴らしさを、完全に統御されたCG映像で表現し切った「ソウルフルワールド」に似てる。)

・最終盤の父親の、借りたカードが反応しなくて部屋を出られず、娘を助けに行けないよ〜!っていうサスペンス演出のしょうもなさに唖然とした。

・たかが犬2匹のために車2台も出して追いかけるか?

・バーゲンが保健所に連れて来られたときの「足を怪我してるから処分する」という話は完全になかったことにされていた。こういう細部の雑さが気になって仕方ない。

・バーゲン改めマックスのトレーニングシーンが面白かった。ガチで勝ちに行ってんな。

・ブラジル出身の友人曰く、サンパウロでは今もこんな感じの非合法な闘犬が行われているらしい。ひぇ〜〜すげ〜〜。
秀ポン

秀ポン