きよみず

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲のきよみずのレビュー・感想・評価

4.4
#181-2015
目覚める野生、崩れ出す均衡。まさにこのキャッチコピーを体感する瞬間が劇中やってくるのだがビンビンに鳥肌がたち圧倒された。

雑種犬に税金を課す街に住む少女リリ。しかし父親に愛犬ハーゲンを捨てられてしまい、ハーゲンは野良犬たちと街を彷徨う。
今までの生活からは想像できないほど、残虐で醜く恐ろしい人間たちを目にするハーゲン。ついに施設にたどり着いたハーゲンは施設の犬200匹を連れ、人間にその牙を向ける。
ハーゲンたちを止められるのは、少女リリの愛だけなのか?

似たようなプロットを持つ映画で猿の惑星が挙げられるが、明確な線引きがされている。実験にしろ未来からやってきたにしろ人工的な力が加わったことがきっかけで人間への反乱を始めた猿の惑星とは違い、この映画ではそのままの自然の姿で反乱を起こすのが怖い。世界のどこかで、いつこんなことが起きてもおかしくないのだ。

その牙をむく犬を演じた犬たちもタレント犬だけではなく実際の野生犬もいたという。訓練は大変だったようだが、飼育犬、野良犬混じって街を駆け抜けるシーンは圧巻の一言。
カンヌ映画祭ではパルムドールならぬパルムドッグを受賞した今作。このことからも分かる通りこの映画の犬たちは凄い。

しかし犬たちの演技だけにとどまらないのが今作の凄いところ。残虐なシーンが多々あり、人間だけではなく犬にも危害が加わっているように見えるシーンが多い。だがエンドクレジットでは死傷犬がいなかったとあるのだ。様々な犬の感情を表す声や恐らくCGなのだろうが全て実写で見ているようなリアルさにも驚かされた。
また、リリとハーゲンのそれぞれ駆けるシーンの切り替え、ラストカットのセンスの高さにもただただ魅せられる。

今作では、絶対悪の存在として闘犬を行う男をはじめ人間目線からしても軽蔑してしまうような人間たちが描かれる。しかし、現在の日本で考えてみるとどうだろう。命を売買する連中がいて、反対に施設では毎日沢山の犬が殺処分される。他国ではペットショップがないところが多いと聞くが、命を軽視し粗末にする日本のシステムに疑問を感じずにはいられない。

今作に出演した犬たちが、みな引き取り手が見つかったという知らせが涙が出るくらい嬉しかった。
きよみず

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