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美しき獣のnetfilmsのレビュー・感想・評価

美しき獣(2012年製作の映画)
3.7
 豪勢な屋敷に住む主人公の女性が、レンタルビデオ店で男に一目惚れする。そのまま2人は意気投合し、その夜屋敷に招き入れるが、女はヴァンパイアになってしまうことを恐れ、男を返してしまう。この吸血鬼は映画が大好きで、戦前のモノクロ映画のDVDを観たりしているわけだが、あまりにも出会いから恋に落ちるまでが急過ぎてまったく感情移入出来ない。人間とヴァンパイアの間には身分や職業とは別の大きな隔たりがあり、その葛藤を埋めようと男女がもがく姿こそが美しいのだが、ザン・カサヴェテスはその葛藤の部分がまったく描き出せていない。久しぶりに再会を果たした男女は熱い口づけを交わすのだが、そこで初めて彼女が吸血鬼であることを噛まれた口の出血で気付く。男性の方は売れっ子脚本家で、地位も名誉もある職業に就いている人間なのだから、どんなに相手を好きになったとしても、彼女が吸血鬼なら普通は手を引くはず。それが今作では、即答で自分も吸血鬼になることを選択する。

 中盤に唐突に登場する妹の存在を、ザン・カサヴェテスは男女の間の高い壁に設定する思惑だったのかもしれないが、男女の障壁というよりも、むしろ積極的に姉妹ゲンカが始まってしまう。これは物語の設計ミスだろう。ただ単純に姉妹と男の三角関係を描きたいのであれば、ヴァンパイアである必要は無い。中盤以降の物語の展開であれば、最初からヴァンパイアに設定する必要は無い。むしろヴァンパイアという設定にこだわり過ぎて、三角関係も姉妹の確執も要領を得ない。後半、エージェント役のマイケル・ラパポートが屋敷を訪れたところは一服の清涼剤となる。 血色も良いし相変わらずのふっくらぶりで、吸血鬼にとっては格好の餌食だろう。しかしヴァンパイア映画としてもホラー映画としても消化不良で最終的に姉が手を下さない結末となれば中途半端さがくすぶる。
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